シンポジウム「湿地と生物多様性」での決議

 2009年10月17日、名古屋市の名古屋港ポートビル講堂において、ラムサール・ネットワーク日本とCBD市民ネットワーク湿地の生物多様性作業部会主催によるシンポジウム「湿地の生物多様性−ラムサールCOP10からCBD−COP10へ」が、約50人の全国からの参加者を得て開かれました。
 シンポジウムは、来年10月に行われる生物多様性条約COP10を1年前に控え、昨年10−11月に韓国で行われたラムサールCOP10を準備してきた韓国湿地ネットワーク(準)から6人の代表も参加して、湿地保護の立場から生物多様性・生態系の保全について考えるための会議でした。
 日韓両国から、ラムサールCOP10に向けた取り組みの評価と、来年のCBD-COP10に向け、両条約の関係、国際協力、NGOの役割、そして、日本と韓国の水田・集水域、沿岸・海洋の湿地の現状と、ポスト2010年にむけた取り組みとその課題についての発表がおこなわれました。
 これらの発表を受けて、活発な議論がおこなわれ、またCBD-COP10に向け、またその後も日本と韓国が協力して取り組むことを確認し、最後に、COPの開催国として、真に湿地保全の取り組みを前進させるため、両国の湿地の保全と再生を要請する下記の決議を採択して、閉会しました。

シンポジウム「湿地と生物多様性」
ラムサールCOP10について発表する韓国のマ・ヨンウン氏(左写真)と、泡瀬干潟訴訟の高裁での勝訴を報告する泡瀬干潟を守る連絡会の前川盛治氏(右写真)



シンポジウム
「湿地と生物多様性-ラムサールCOP10からCBD-COP10へ-」決議

湿地を破壊する日韓の大規模開発事業を見直し,
両国の湿地を保全・再生することを求める

 国や自治体が事業主体となった公共工事による大規模開発で,日韓の湿地が危機に瀕している。
 公共事業として行われる開発の湿地破壊は,民間企業なら負担しきれない巨額の公金が投入され,大規模開発が行われるため,湿地破壊の規模も大きい。また,国や自治体が公然と湿地を破壊するため,そうした開発にブレーキをかけるような開発規制や湿地保全の法制度の整備,保護区の指定を遅れさせる要因ともなってきた。
 2008年にラムサール条約第10回締約国会議のホスト国となった韓国と,2010年に生物多様性条約第10回締約国会議のホスト国となる日本において,真に湿地保全の取り組みを前進させるためには,公共事業による湿地の大規模開発の見直しが不可欠である。
 とりわけ,以下の開発行為について,早急に見直しを実現することが急務である。

(日本)
1 諫早湾干拓事業
 2008年3月に事業が終了したものの,この事業がもたらせた有明海異変と呼ばれる環境破壊の影響は深刻である。漁場環境が破壊された漁民は不漁に苦しみ,自殺にまで追い込まれる者が未だに少なくない。漁業を基盤になりたっていた地域社会は大きな打撃を受けている。
 政権党の民主党が選挙公約に掲げた潮受堤防排水門の開門を1日でも早く実現し,有明海を破壊から真の再生へ転換することを強く求める。
2 泡瀬干潟埋立事業
 南西諸島最大級の干潟と藻場を破壊する埋立事業は,すでに土地利用の合理性が失われ,土地利用計画の見直しをしなければならないほどの迷走状態に陥っている。それにもかかわらず,目的も定まらないまま干潟と藻場を破壊する埋め立て工事だけが進行するという異常事態が続いている。
 この異常事態に対して、10月15日に福岡高裁那覇支部は、沖縄県と沖縄市に埋め立て事業に関する公金支出の差し止めを命じた那覇地裁判決を支持し、再びこの事業を断罪した。
 沖縄県と沖縄市は上告を断念すべきである。泡瀬干潟埋め立て事業の中止を選挙公約に掲げた政権党の民主党は,ただちに埋め立てを中止し、公約を実現すべきである。
 そのうえで、これまでに構築した建造物を撤去し、傷つけられた泡瀬干潟を再生するよう強く求める。

(韓国)
3 4大河川事業
 韓国政府は、気候変化に備え河川生態系を生かす、との名目で2012年までに漢江ハンガンと洛東江ナクトンガン、錦江クムガン、栄山江ヨンサンガンに20個以上のダムを建設し、5.7億 m3を浚渫し、377kmの堤防を嵩上げする計画を立てている。
 この事業によって、さまざまな水鳥の生息・越冬地である4大河川の主要河川湿地が消失の危機に瀕し、淡水魚を含む水中生物と河川周辺植物生態系が大きく撹乱されることになる。国民の70% 以上がこの事業に反対または留保を表明している中、韓国政府は4大河川事業を直ちに中断しなければならない。
4 韓国のその他の湿地破壊事業
 4大河川事業とは別に、京仁キョンイン運河とソウル市の漢江ハンガン・ルネサンス、京畿キョンギ道の漢江ハンガン連結6大事業と連携して、シンゴク固定堰を約14 km下流に移す計画が漢江ハンガン河口湿地保護地域の主な湿地を脅威にさらしている。世界最大の規模で干潟を破壊するセマングム干拓事業が進行中である。この外にも松島ソンド干潟のように国際的に重要な干潟が埋め立てられる予定である。また、韓国最大の渡り性水鳥渡来地である洛東江河口の文化財区域の面積を半分に減らそうとする動きがある。済州島のカンジョン・マウル沿岸は、ユネスコ生物圏保全地域に指定されている所であるにもかかわらず、海軍基地建設のための埋め立てが推進中である。仁川インチョン湾潮力発電事業はチャンボン島干潟湿地保護地域を、江華カンファ潮力発電事業は天然記念物に指定された江華カンファ島干潟をおびやかしている。韓国において二か所しかない絶滅危惧動物ゴマフアザラシの生息地であるカロリム湾も潮力発電により破壊の危機に瀕している。
 韓国政府は昨年から国家基本発展戦略としてのCO2削減緑色成長を名目にこのような各種環境破壊事業を施行している。持続可能性とは正反対の湿地破壊政策は直ちに中止し、ラムサール条約の精神を生かして湿地保全政策へ転換することを強く求める。

   2009年10月17日
シンポジウム「湿地と生物多様性-ラムサールCOP10からCBD-COP10へ-」
参加者一同

2009年11月03日掲載