韓国四大河川事業の工事中断を求める緊急声明

 ラムサール・ネットワーク日本(ラムネットJ)は2010年7月26日、韓国で行われている四大河川開発事業の工事中断を求める緊急声明を発表しました。
 あわせて、この声明についての賛同者を募集したところ、早速、多くの個人、団体から、賛同をいただきました。現地での状況が予断を許さないこともあり、8月5日に、その時点までの賛同者(個人36名、団体3団体)のリストとともに、緊急声明を韓国大統領宛に郵送し、大統領および関係の政府長官、駐日日本大使館にも同文をメールで送信しました。

 今回の緊急声明への賛同は、8月25日を締切として、引き続きみなさまからの賛同を募集いたしますので、ぜひ、ご協力をお願いいたします。8月末頃に、再度、韓国政府へ提出する予定です。
 ご賛同いただける方(個人・団体)は、ラムネットJまでEメールでご連絡ください。個人の方は、賛同者名簿に記載する際の肩書き、所属などがあればお書き添えください。
●Eメール info☆ramnet-j.org(☆印は@に替えてください)
[2010年8月8日更新



2010年7月26日
韓国四大河川事業の工事中断を求める緊急声明

ラムサール・ネットワーク日本

 私たち、ラムサール・ネットワーク日本は、韓国、イ・ミョンバク政権に対して、四大河川開発事業の工事を直ちに中断し、環境保護団体や地域住民との対話の中で、事業のあり方を根本的に見直すことを要請します。

 私たちは、長年にわたり、日本の干潟・湿地の保全に取り組んできた草の根のグループのネットワークです。この15年間は、日本と韓国のNGOの相互交流を深めることによって、両国での活動を活発化してきました。
 特に、2008年に韓国で行われたラムサール条約第10回締約国会議(Ramsar COP10)は、湿地保全に関わる世界のNGOのネットワークを強化する意味でも重要な機会となりました。
 そのRamsar COP10の直後に、韓国政府がすすめている四大河川開発事業は、ハンガン(漢江)、クムガン(錦江)、ナクトンガン(洛東江)、ヨンサンガン(栄山江)の四つの河川に20ヶ所以上のダムと堰を建設し、土砂浚渫の総量は 5.7億立方メートルに及ぶなど、極めて大規模なものです。韓国政府は、この事業による生態系へのダメージを否定していますが、四大河川開発事業は、国際的に重要な渡り鳥の渡来地を消滅させ、河川流域の希少な動植物の生息を脅かすものに他なりません。すでにラムサール条約に登録されている条約湿地への悪影響も懸念されています。
 私たちは、Ramsar COP10の開会式で、イ・ミョンバク大統領自身が「ラムサール条約の模範的な国家になる」と演説したことを忘れていません。その直後に、このような大規模な湿地環境の破壊を主導する韓国政府の行為は、ラムサール条約への挑戦と言っても過言ではありません。
 私たち、ラムサール・ネットワーク日本は、韓国湿地NGOネットワークとの共同で、今年に入ってすでに二回、四大河川開発事業の工事現場を視察しました。
 2月26日から 3月1日の視察では、ハンガン、ナクトンガンの上流域、クムガンの12ヶ所を訪ね、7月9日から11日の視察では、ナクトンガンの上流、中流から河口部の10ヶ所を訪れました。私たちが見たものは、河川を遮断するように巨大なダムが建設され、河畔林が根こそぎ切り払われ、背後地に、膨大な浚渫土砂がうず高く積み上げられている現実でした。あわせて、事業の目的である治水、利水について、専門の研究者の意見を聞きましたが、この事業の有効性は認められませんでした。
 私たちは、このような環境破壊の現場を目の当たりにして、大きな怒りを覚えました。それとともに大変残念に思うことは、失われてしまった河川環境が、日本の河川環境と比べても、はるかに素晴らしいものであったということです。現時点で破壊を免れている自然環境は、ぜひとも保全し、すでに破壊のおよんでいる部分についても、復元を目指すべきであるというのがラムサール条約の立場です。
 環境問題に国境はないと言いますが、韓国の四大河川の環境は、アジアの中でも、国際的にも、大きな価値を持つものであるにもかかわらず、韓国政府は、その価値を正しく評価していません。
 今回、7月22日からは、韓国環境運動連合(KFEM)のメンバーが、南ハンガンのイポ堰と、ナクトンガンのハマン堰のゲートの上で座り込みを始め、政府に対し、工事の中断と、代替策を検討する機関の設置を求めています。
 私たちは、彼らがこのような行動に至ったのは、政府側の環境影響調査や、合意形成の手続きが不十分であったことに原因があると理解し、彼らの要求は、問題解決のために必要不可欠なものであると考えます。
 今年10月には、日本の名古屋で生物多様性条約の第10回締約国会議(CBD-COP10)が行われます。韓国の四大河川開発事業は、生物種・遺伝子・生態系の多様性の保全を掲げる生物多様性条約の観点からも重要な問題であり、現在のように、自然保護団体や多くの住民からの反対の声を無視し、工事を続行したまま、韓国政府が CBD-COP10に参加することとなれば、国際的な批判を免れることはできません。
 私たちは、韓国政府が、この状況を放置することなく、冷静な判断の下に、四大河川の工事を中断し、環境保護団体や地域住民との対話の中で、事業のあり方を根本的に見直すことを要請します。

以上



【参考】KFEM(韓国環境運動連合)のブログ
http://koreawetlands.blogspot.com/2010/07/kfem-activists-sitting-in-at-2-new-dams.html
を和訳し、以下に写真とともに転載しましたので、あわせてご覧ください。
 
2010-07-25
KFEMの活動家が韓国で建設中の2ヶ所のダムで座り込みを開始

 「自然破壊を招く四大河川開発事業を中断し、代替策を検討せよ。」
2010年7月22日午前4時、5名のKFEM(韓国環境運動連合)の活動家が、いずれも四大河川事業の工事現場である、ナムハンガン(南漢江)のイポ堰の高さ20mのゲートの上部と、ナクトンガン(洛東江)のハマン堰で、高さ40mのタワークレーンの上部で座り込みを開始した。ソウルKFEM事務処長であるヨム・ヒュンチョル(Yum Hyung-Cheol)氏、コヤンKFEM執行委員長のパク・ピョンス(Park Pyung-Soo)氏、スウォンKFEM事務局長のチャン・ドンビン(Jang Dong-bin)氏が、南ハン江のイポ堰に座り込んでおり、プアンKFEM事務処長のチェ・スヨン(Choi Soo-Young)氏、チンジュKFEM事務処長のイ・ファンムン(Lee Hwan-Moon)氏がナクトン河のハマン堰に座り込んでいる。

 彼らは、イ・ミョンバク政権が、彼らの要求を受け入れるまで、座り込みを続ける。彼らは、同日発表した声明の中で次のように訴えた。「私たちは、環境保護活動家として、理不尽で、生態系を破壊する四大河川に対し、黙ってはいられない。私たちが市民の立場から提案してきたことを、政府はすべて無視し、拒絶してきた以上、現時点で、私たちにできることは、これしかない。」
 韓国政府は、2009年6月8日に「四大河川再生事業」のマスタープランを発表した。この事業では、この事業では、韓国でもっとも大きな四つの河川に、20ヶ所以上の新たなダムが建設され、691kmの区間で、570万立方メートルの土砂が浚渫される。総費用は174億米ドル(約2兆円)に及ぶが、これは税金で賄われる。これは、いわゆる「低酸素・グリーン成長」の名のもとに、雇用創出を目的とする経済刺激策の一つである。
 四大河川は、韓国国民の2/3の飲料水の水源であり、絶滅に瀕し、保護されている多くの動植物の生息域である。

 私たちKFEMは、イ・ミョンバク大統領に要求する。 
 ・この事業に対する一般市民の懸念を理解し、工事を即時中止すること
 ・四大河川開発に関する代替策を検討する機関を設置すること
 ・市民団体や住民と話し合うこと。

 5名の活動家は、イ・ミョンバク大統領からの回答を受けるまで、堰の上部および、タワークレーンでの座り込みを継続する。私たちは、私たちの要求が政府に受け入れられ、実現されることを期待している。

*韓国大統領および関係の長官に対して、四大河川開発事業に関するみなさんの想いを伝えて下さい。
 イ・ミョンバク 大韓民国大統領 webmaster@president.go.kr
 チョン・ジョンファン 国土交通海洋府長官 chungceo@mltm.go.kr
 イ・マネ 環境府長官 eman2mev@me.go.kr
 写:KFEM(地球の友 韓国)国際部 seon@kfem.or.kr

問い合わせは、KFEM(地球の友 韓国)のキム・チュニ(Ms. Kim Choony)または、チャン・ソニョン(Ms.Jang Seon-yeong)へ。 

ご支援に感謝します。
川をせき止めるな
(和訳 ラムサール・ネットワーク日本 菅波 完)
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2010年07月30日掲載