円山川下流域及び周辺水田のラムサール条約湿地登録に向けて

豊岡市コウノトリ共生課

 コウノトリ野生復帰に取り組む豊岡市では、その生息を支える「円山川下流域及び周辺水田」の湿地環境を対象に、2012年COP11でのラムサール条約湿地登録を目指しています。
 コウノトリ野生復帰の取り組みは、かつての「豊かな自然と文化」を、もう一度現代の暮らしに取り戻そうとする運動に他なりません。人が関わりながら再生・創造された環境の中で、一度は絶滅したコウノトリが復活・定着している。その姿は、乱開発による湿地の滅失を嘆く世界の現状とは一線を画すものであり、豊岡が、今後ラムサールの一員となって訴えていくべきものだと考えています。

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兵庫県豊岡市の円山川下流域

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ハチゴロウの名で親しまれた野生のコウノトリ

 現在、住民や関係機関・団体との調整を続けていますが、最も苦労しているのが、「法による保全担保」です。ラムサール条約そのものに特段の規制や縛りはありませんが、各国が責任を持って保全管理に目を配る必要があり、日本では、環境省の所管法令による開発の規制等が必要とされています。
 豊岡の場合、コウノトリを保護するための国指定鳥獣保護区を設定し、その保護区のうち、開発規制を含む「特別保護地区」がラムサール登録の基本的な担保になります。しかし、地元農家の反応はこうです。「湿地を守る国際条約に登録するのに、なぜ、『鳥獣保護区』の法の規制を受けるのか。これだけシカやイノシシ等の獣害に悩まされている我々が、コウノトリや湿地のためなのに、シカやイノシシのことまで我慢しなければならないのか」。
 農家だけではありません。今回登録を目指すエリアは、一級河川円山川の本流を含みます(登録が実現すれば、湿地名称に河川が入るのは、国内では初めてのことです)。コウノトリの生息を支える田んぼ〜水路〜河川の連続した水辺環境を、鳥獣保護法だけで保全できるのか。そんな疑問の声や、ラムネットJが長年主張してきた動きにも押され、現在、国指定鳥獣保護区普通地区+河川法という複数の法の組み合わせによる保全担保も含め、約570haを対象エリアとする方向が固まりつつあります。サケやイトヨ等の多様な魚類相やミズアオイ等の水草相を育む円山川を評価し、河川法を保全担保として認める環境省のこの方針は、コウノトリだからこそ成し得たのでしょうか。いずれにしても各地の湿地の状況に応じて、「どうやって守るか」、「何を根拠に守るか」について、今後も現場に即した議論が進んでいくことを期待します。
 「鳥獣保護区の設定期間は20年です──」。住民との話し合いを通じて見えたのは、後継者がいない、農地を守れない、20年後の未来など描ける状況にない地域の実情です。しかし、当初難色を示された地域の農家の方々も、水田を含む湿地環境を守り、うまく活用していくことを目指すラムサール条約が、営農振興をはじめ、地域の未来を創っていく鍵になると理解され、今、一緒に登録に向かっています。私たちもそうなることを信じて、一歩一歩登録への歩みを進みます。
(ラムネットJニュースレターVol.7より転載)

2011年11月22日掲載