農地の放射能汚染と田畑の除染活動報告

一般者社団法人グリーンオイルプロジェクト
NPO法人 民間稲作研究所 稲葉光國

1 農地の放射能汚染。その作物への移行と除染
 2011年3月11日以降、福島・茨城・栃木・宮城・千葉・群馬等の農家は田畑や山林に広がった放射能汚染と向き合うことになりました。生育途中であった麦類の汚染は3月15日の東北の風に乗って栃木県の南部にも広がり、土壌の汚染量とはあまり関係なく広範な汚染を引き起こしました。汚染後に田畑を耕しは種された大豆は土壌の汚染程度に応じた汚染が広がていました。少しでも汚染されたものは取引できないという有機農産物業界の反応のなかで、最も安全と環境の保全に心を砕いてきた有機農業者が最も深刻な経済的打撃を受けるという不条理に直面しました。

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 土壌汚染が広がった後に作付けされたイネは移行係数が0.1という(独)農業環境研究所の知見を根拠に、5000Bq/kgを超える高濃度汚染地域の作付けが禁止されました。
 結果は、過去の知見と大幅な違いが明らかになりました。堆肥や有機肥料が長期間に亘って投入されてきた日本の水田は、低地に位置することから粘土鉱物やプラントオパールも豊富に存在し、セシウムがそれに吸着され、イネにはあまり移行しないことが判明しました。移行係数は概ね1桁違いの0.01前後になっており、100Bqを超える調査件数は0.4%以下でした。セシウムが検出された水田は主に山林に囲まれた棚田で、常時天水が流れ込む水田や冬期湛水田のイネ、掛け干しなどをしたイネ、河川周辺でCEC(陽イオン交換能)の低い砂質土壌で栽培されたイネなど、自然の豊かな地域や農法が被害を受けてしまいました。そのため、CECの高い腐植やゼオライト、カリウム肥料などを投入し、移行を防止する対策を採った水田や、水の取り入れ口にゼオライトやモミガラ、蕎麦殻などセシウム吸着能の高い資材を入れセシウムの進入を防止した有機水田では、土壌そのものにもセシウムが少なくなっていることが判明したきました。
 その減少のメカニズムは十分に明らかになっている訳ではありませんが、抑草のために田植前に2回実施している代かきによって、プラントオパールや腐植、粘土鉱物などに付着しているセシウムはいずれも軽いために、雑草の種子と同じように水田の表層に移動することが実験で確かめられてきました。表面に移動したセシウムが、その後の水管理で下の田んぼに流れてしまい、水田内のセシウム濃度が減少したものと考えられます。こうした可能性を考慮し、図のような除染対策を実験中です。

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2 畑の除染活動をめぐって
 畑の除染は、大豆への移行がなくなる100Bq以下への低減をめざした除染活動に取り組んでいます。セシウムを多く吸収しながら可食部の油には移行しない油脂作物の輪作を実施することにしました.。夏作物としてひまわり・大豆を栽培、冬作物にはナタネを栽培し、ミツバチへの餌の供給と大豆輪作による地力維持を行いながら、安心安全な国産植物油の生産で被災地の経済を復興する試みです。ラムサール・ネットワーク日本水田部会のみなさまを始め多くの心ある方々から780万円のカンパを頂き、搾油所が完成し、ひまわり・大豆油の搾油がはじまりました。是非ご購入頂き、長期間にわたる原発被害との戦いにご支援下さい。

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3 農業と自然エネルギーの新たな発展のために
このプロジェクトは油脂作物による除染と経営再建という目的のほかに「自然エネルギーの自給による脱原発」という大きな柱があります。
 農業には自然エネルギーが溢れており、その活用が脱原発に通じること実証する運動としても展開してきました。当会の「有機農業技術支援センター」の冷暖房はアルキテクタの黒岩氏の設計で地下タンクに雨水を貯め、屋根裏の気化熱による冷却方式で冷房しています。暖房は堆肥の発酵熱、モミガラ燻炭の製造熱、薪ストーブで行い電気や石油には頼らない方式としました。また農業生産に使用するトラクター、コンバイン、トラックなどは植物油の廃油をSVO方式で浄化し、直接使用する試験をテスト中です。乾燥機やもみすり機、搾油機などは200Vの3相電源が必要で、東電からの配電に依存せざるを得ませんでしたが、ジーゼル発電機を導入し廃油で稼動する実験を始めましたところ40円/Lで調達精製が可能になり、支援センターや農場全体で使用するエネルギーの95%まで自給できる見通しがついてきました。油脂作物の生産によって再生エネルギーの自給率は100%を超えるのは間違いなく、自然資源の豊かな日本の未来を具体的に展望できる取り組みにしたいと願っています。

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※この記事は、ラムサールCOP11向けて発行した「ラムネットJニュースレター」号外(英語版)に掲載した記事の日本語の元原稿です。

2012年07月08日掲載