荒尾海岸がラムサール条約に登録されるまで

WWFジャパン 前川 聡

 荒尾海岸が有明海の中では初めてラムサール条約登録湿地となりました。WWFジャパンも日本野鳥の会熊本県支部と調整の上、2008年よりたびたび荒尾市を訪問し、市関係者(市長、副市長、担当課、地域振興会)と、水鳥の日本有数の渡来地であること、観光資源としてのポテンシャルもあること、漁業などの利用を制限するものではないこと等、随時情報交換に努めました。コープ九州の機関誌に市長のコメント付きで荒尾海岸の紹介記事を掲載したり、全国の重要渡来地をポスター形式で分かりやすく紹介した資料の中でも荒尾市の活動を紹介し、地域イベントで活用してもらうなど、市民に広く知ってもらうよう努めました。
 また、環境省九州地方事務所や熊本県庁も別途訪問し、上記の情報に加え、市長をはじめ荒尾市が保全に前向きであることを伝えました。当時、県や環境省は荒尾海岸が県指定鳥獣保護区であることやその現状について、十分な情報を持っておらず、今回、環境省がラムサールに向けて動き出すきっかけになったのではないかと考えています。

荒尾海岸のハマシギの群れ
荒尾海岸のハマシギの群れ(写真:西村誠)

 荒尾市が保護区指定に前向きだった背景には、荒尾市在住の野鳥の会熊本県支部メンバーである安尾征三郎氏が中心となり、以前より市役所(時には市長)を訪問し、情報を伝え、良好な関係づくりに努めてきたことがあります。地域振興会とともに観察会を実施したり、市に要請して渡り鳥の看板を設置してもらったりといった実績がありました。
 荒尾海岸は大きな環境保全上の障壁がなかったこともあり、特段の対立もなく進みましたが、それでも4年ほどかかりました。有明海で登録地が誕生したことは、生物多様性保全そして環境保全活動を考える上、重要な意味を持ちます。現行の国内干潟登録地のほとんどが、漁業活動が行われていない都市型もしくは自然公園型です。漁業という基幹産業の場と重複する荒尾海岸は、ワイズユースのひとつのあり方を示す場になるのではないかと期待しています。

市が荒尾海岸に設置した渡り鳥の看板(2008年当時)
市が荒尾海岸に設置した渡り鳥の看板(2008年当時)

ラムネットJニュースレターVol.11より転載)

2013年03月20日掲載