中池見湿地の北陸新幹線建設問題に関する要望書を提出

 ラムネットJでは、福井県・中池見湿地の北陸新幹線建設問題に関する下記の要望書を、2013年4月18日付けで、環境省、国土交通省、福井県、敦賀市、鉄道建設・運輸施設整備支援機構に送付しました。


「中池見湿地」を北陸新幹線が貫通する建設計画に関して
すべての利害関係者による速やかな協議を求める要望書

2013年4月18日
環境大臣 石 原 伸 晃 殿 
特定非営利活動法人ラムサール・ネットワーク日本
代表理事 花 輪 伸 一
柏 木   実
呉 地 正 行
堀   良 一
要 望 の 趣 旨

 国、自治体、北陸新幹線建設事業主体、保全団体、地域住民等の「中池見湿地」のすべての利害関係者の協議によって、速やかにラムサール条約湿地「中池見湿地」の保全と「賢明な利用」の実現をめざす「中池見湿地管理計画」を策定し、「中池見湿地管理計画」に基づいて、北陸新幹線建設工事による中池見湿地の水系、地下水脈、生物相への影響を回避するための措置が取られることを要望する。


要 望 の 理 由

1 条約湿地登録直後に公表された北陸新幹線中池見湿地貫通計画への懸念

 2012年7月、福井県敦賀市の中池見湿地は、日本政府が新たに登録した9か所のうちの一つとしてラムサール条約湿地に登録された。中池見湿地は、国際的にも極めて重要な泥炭湿地であり、世界屈指の層厚40mの泥炭層は約12 万年分の堆積といわれ、典型的な袋状埋積谷で地形の破壊も少なく、一般的に泥炭地の生物相は貧弱といわれるなか生物の多様性も際立っており、永年にわたり、関係者の間で1日も早い条約湿地登録が期待されていた。
中池見湿地が条約湿地に登録された喜びもつかの間、2012年8月末に、2012年6月国土交通大臣によって金沢〜敦賀間について着工認可された北陸新幹線のルートが中池見湿地の「後谷」部分を貫通する予定であることが明らかになった。「樫曲」の集落方面から「余座」の集落方面に向かう新幹線ルートは、北陸自動車の下を通って、中池見湿地にかかるところからボックス工法と呼ばれるトンネルになり、中池見湿地の南側玄関口の「後谷」を地上高の高さで通り抜け、そのままトンネルとして「深山」を貫通し、余座側の地上40mの位置が出口になる予定とされている。
 2002年に環境影響評価(環境アセスメント)が行われた際の予定ルートは中池見湿地の北側の山の一部にかかるものの湿地部分の「後谷」にはかかっていなかったにもかかわらず、それよりも約150メートル内側に入った今回のルートに変更されたことによって、中池見湿地の水系や地下水脈、生物相に深刻な影響が懸念される。事業主体である独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下運輸機構と表記する)は「今回のルートは2005年には決まっていたものであり、ルートを変更する予定はない。今後工法を決定するために水文・自然環境の調査を行い、その結果によってできる限り中池見湿地の保全を図る工法を採用する。」旨の見解を取っている。ラムサール条約湿地に登録された湿地を保全し賢明に利用することは締約国の責務であり、深刻な影響が懸念される中、一旦認可された以上事業主体の判断のみによって認可どおりの予定ルートで工事が行われてもやむを得ないとの弁解は国際的に通用するものではない。

2 条約湿地を保全し賢明に利用するための管理計画の策定

 そもそも、条約湿地を保全し賢明に利用するためには、当該条約湿地に湿地管理計画を策定することは最低条件であり、湿地管理計画も策定せずに、既に認可されているからと湿地の破壊や劣化を伴う開発が一切見直されることなく実施されるならば、条約湿地に登録された意義のほとんどが失われてしまう。
 ラムサール条約が定めるガイドラインでは、条約湿地を保全し賢明に利用して行くための取り組みは次のようにまとめられている。
ⅰ)個々の湿地の生態学的特徴を全体的に把握し理解し、人々がその湿地を利用する水準や方法がどのように湿地の生態学的特徴に影響を及ぼすか及ぼしているか理解する。そして、それらを条約湿地情報票(Ramsar Information Sheet)を用いて記載する。
ⅱ)条約の指針を適用した保全管理計画を策定する。
ⅲ)保全管理計画の下に必要に応じて、湿地環境の再生や回復のための計画を条約の指針を適用して策定し実施する。
ⅳ)保全管理計画の策定から実施まで、条約の指針を適用した住民参加を得て進める。
 また、ラムサール条約が定めるガイドラインでは、湿地管理計画策定過程及び管理計画における最重要の機能としては、以下の10項目が挙げられている。
(1) 個別湿地管理の目標を特定すること
(2) 湿地の特性に影響する、あるいは影響する可能性のある要因を特定すること
(3) 対立を解消すること
(4) モニタリングの要件を規定すること
(5) 目標の達成に必要な管理を特定し明示すること
(6) 効果的管理の連続性を維持すること
(7) 資源を獲得すること
(8) 湿地、組織、利害関係者の中で、そしてそれらの相互においてコミュニケーションを可能とすること
(9) 管理が効果的かつ効率的であることを明示すること
(10) 地方政策、国家政策、国際政策との整合性を確保すること

3 中池見湿地管理計画策定過程の中で新幹線貫通問題の解決を

 上記管理計画の最重要な機能の中で、北陸新幹線が中池見湿地を貫通する問題は、少なくとも(1)ないし(6)、(8)、(10)に関わっており、中池見湿地の管理計画を策定する上で、北陸新幹線が中池見湿地を貫通する問題への対処を避けることができないことは明白である。
 既に、北陸新幹線が中池見湿地を貫通する問題については、公益財団法人日本自然保護協会、特定非営利活動法人ウェットランド中池見、全国自然保護連合、日本湿地ネットワーク、日本生態学会等の団体から、計画変更や環境影響評価のやり直しとその結果に基づく計画見直しを求める要望が国や運輸機構、福井県等に提出されている。
 それらの要望では、管理計画への言及が見られないが、この問題は、条約湿地の保全と賢明な利用のための湿地の管理として解決が図られなければならないのであり、どのような調査が行われるべきかをはじめとして、北陸新幹線計画のルート見直しの必要性の吟味、そして見直しが必要とされた場合にどのような見直しを行うべきか等は、すべての利害関係者が関与する中池見湿地管理計画の策定過程で検討されなければならない。策定過程の中で解決への道筋をつけ、管理計画の中に中池見湿地の水系、地下水脈、生物相への影響を回避するために必要な措置がすべて盛り込まれなければならないのである。そして、関与すべきすべての利害関係者の中には、運輸機構は勿論のこと、永年地元敦賀市で中池見湿地の保全に取り組んできた特定非営利活動法人ウェットランド中池見、特定非営利活動法人中池見ねっと等の保全団体や中池見周辺の集落の区長により組織している東郷地区区長会は絶対に欠かすことができない。
 かつて、ラムサール条約湿地の伊豆沼の湖岸で温泉掘削計画が持ち上がった際に、周辺部での開発が規制されていないため法的には掘削を許可する以外ないという中、広範に中止を求める声が上がり、業者が掘削を断念した。しかし、その後も、条約湿地の保全に関しては、湿地生態系の特性に即した保全のための法的手当てがないまま今日を迎えており、この北陸新幹線が中池見湿地を貫通する問題も既に着工認可が下りているから直ぐにでも着工することが法的には可能という意味では、かつての伊豆沼と同様な状況にある。
 しかし、法的な規制の問題としてではなく、条約湿地の管理の問題として、すべての利害関係者が関与して真剣に議論し、中池見湿地管理計画を策定するのであれば、その過程の中で北陸新幹線建設による中池見湿地への深刻な影響を回避するよう調整を図ることは十分に可能である。
 そのようにして条約湿地を保全し賢明に利用することが、ラムサール条約締約国である日本に求められているのであり、今や国内46か所となった条約湿地をはじめとする全国の湿地保全関係者、自然保護関係者がこの中池見湿地の北陸新幹線貫通問題を我がことのように注目している。
 よって、ラムサール条約の掲げる「湿地の賢明な利用」の理念の下国内外の湿地保全活動に取り組む特定非営利活動法人ラムサール・ネットワーク日本は、上記のとおり要望する次第である。
以上

※本要望書と同文の要望書を以下の方々にも提出しています。
 国土交通大臣 太田昭宏殿
 福井県知事 西川一誠殿
 敦賀市長 河瀬一治殿
 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長 石川裕己殿

2013年04月19日掲載