共同声明:ラムサール条約にもとづく辺野古・大浦湾沿岸域の保全について

 ラムサール・ネットワーク日本をはじめとする17団体は、ラムサール条約事務局が辺野古・大浦湾の保全に関して日本政府に情報提供を依頼する文書を送付したことを受けて、2014年11月25日に下記の共同声明を発表しました。



2014年11月25日
共同声明

ラムサール条約にもとづく辺野古・大浦湾沿岸域の保全について

ラムサール・ネットワーク日本、(公財)日本自然保護協会、(公財)日本野鳥の会、WWFジャパン、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン、国連生物多様性の10年市民ネットワーク、沖縄・生物多様性市民ネットワーク、沖縄環境ネットワーク、ヘリ基地いらない二見以北十区の会、北限のジュゴン調査チーム・ザン、ジュゴンネットワーク沖縄、ジュゴン保護キャンペーンセンター、沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団、ヘリ基地反対協議会、沖縄平和市民連絡会、沖縄のための日米市民ネットワーク(JUCON)、日本環境法律家連盟

要 約

 私たちは、この共同声明によって、以下のことを政府に要請する。
  1. 辺野古・大浦湾沿岸域への米軍基地建設による環境影響とその対策について、政府は、ラムサール条約事務局からの情報提供依頼に対して誠意を持って回答すること。
  2. 辺野古・大浦湾は、正式にラムサール条約湿地に登録されてはいないが、ラムサール戦略計画2009-2015にもとづく「国際的に重要な湿地」であると認めること。
  3. 愛知ターゲット目標10にもとづき辺野古・大浦湾のサンゴ礁と海草藻場などの脆弱な生態系を保護すること。

本 文

 11月1日の琉球新報および沖縄タイムスは、ラムサール条約事務局が、環境省に対し、米軍基地の建設計画が進行している辺野古・大浦湾について、サンゴ礁生態系や絶滅危惧種のジュゴンの保護に関する文書を送付し、環境影響評価や環境影響の低減措置、基地建設とその運用によりダメージを受ける陸域や沿岸域の修復などについて確認を求めていると報道している。
 
 この報道をもとに、ラムサール・ネットワーク日本は、11月3〜7日にカンボジアで開かれたラムサール条約COP12準備アジア地域会議の際に、同条約事務局にその詳細について問い合わせを行った。それによると、条約事務局は、名護市のホームページによって辺野古・大浦湾の状況を知り、この地域は環境省の「日本の重要湿地500」(2001年)、「ラムサール条約湿地潜在候補地リスト」(2010年、172か所)に含まれていることから、同省に情報の提供を依頼し、その依頼文書のコピーを関係する名護市と沖縄県、国連ジュネーブ事務局の日米政府関係者へも送付したとのことである。
 また、この文書送付は、ラムサール条約4条1項で「各締約国は、湿地が登録簿に掲げられているかどうかにかかわらず、湿地に自然保護区を設けることにより湿地および水鳥の保全を促進し、かつ、その自然保護区の監視を十分に行なう」とされていること、および締約国はラムサール戦略計画2009-2015(決議X.1)を遵守する義務があり、その戦略2.7「その他の国際的に重要な湿地の保全」において「まだ公式に条約湿地に指定されていないが、条約の国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン(決議IX-1付属書B)または国内の同等のプロセスを通じて、条約湿地の要件を満たしている国際的に重要な湿地について、その適切な管理と賢明な利用が達成されている」という目標があることを根拠にしているとのことである。
 さらに、事務局は、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)、環境省レッドリストでは絶滅危惧IA類(CR)であり、生息数10頭程度という絶滅の危機に瀕している沖縄のジュゴンとその生息地の海草藻場の重要さについて指摘している。また、世界中のサンゴ礁が未だに深刻な状況にあることも指摘し、10月に韓国で開催された第12回生物多様性条約締約国会議(CBD/COP12)で公表された「地球規模生物多様性概況第4版(GBO4)」によれば、愛知ターゲットの目標10(サンゴ礁などの脆弱な生態系への人為的影響の最小化)について、2015年までの達成目標は満たされない可能性があることから、辺野古・大浦湾のサンゴ礁、海草藻場のような脆弱な生態系の保全に、日本政府が貢献することを強く期待している。

 これらのことから、ラムサール条約事務局は、辺野古・大浦湾の沿岸域が同条約の定義による湿地に該当し(干潮時に水深6メートルを超えない海域、サンゴ礁、海草藻場などを含む)、登録されたラムサール条約湿地ではないが、条約第4条1項およびラムサール条約決議X-1戦略2.7にもとづいて「国際的に重要な湿地」と位置づけ、国内の湿地保護政策によりラムサール条約湿地と同様に保護対策が取られるべき地域と評価していると言える。
 条約事務局は、締約国が条約を実施するために設置した機関であり、条約で課せられた義務を締約国が実行するためのサポートを行う機能を持っている。そのため、今回の文書では、基地建設についての評価はせず、中立的な立場で重要湿地への環境影響とその対策について情報収集を行っている。この情報収集は、条約事務局が、ラムサール条約にもとづいて条約湿地およびその他の国際的に重要な湿地を保護するために行う活動であり、その機能と任務を正当に果たしていると言える。

 一方、辺野古・大浦湾沿岸では、埋め立てのためのボーリング調査が開始され、また、埋め立て土砂の運搬方法の変更や美謝川の流路の再変更による暗渠化など、埋め立て計画が環境アセスメント補正評価書の記述から大きく変更されることが報道されている。
 自然保護団体によると、2014年5月から7月にかけて辺野古・大浦湾海域の埋立予定地内外において、ジュゴンの食痕がそれ以前と比較してはるかに多く確認され、採食場所として頻繁に利用するようになったが、8月以降の調査では確認されていないことから、7月に開始され現在まで行われているボーリング調査等によりジュゴンがこの海域を再び放棄した可能性が高いという。このように、環境アセスメント手続きの後にも、基地建設工事と関連し、新たな知見が得られていることは重要である。

 辺野古・大浦湾のサンゴおよびサンゴ礁、海草藻場、絶滅のおそれの強いジュゴンなど、この海域の生物多様性保護は、IUCN(国際自然保護連合)による保全勧告と決議(2000年アンマン、2004年バンコク、2008年バルセロナ)が出され、第12回生物多様性条約会議(2014年韓国ピョンチャン)のサイドイベント「沖縄島と済州島での軍事基地建設による島の生物多様性に対する脅威」で取り上げられ、さらに今回のラムサール条約事務局の文書送付にみられるように、世界的な関心事となっている。また、国内においても、11月11日に、日本生態学会、日本ベントス学会、日本動物分類学会など19の学術団体が連名で、辺野古・大浦湾の生物多様性保護と基地建設の見直しを求める要望書を沖縄県知事、環境大臣、防衛大臣に提出するなど、保全を求める声が大きいのである。

 以上のことから、日本政府は、ラムサール条約による義務を実行するために、条約に直接関わる環境省と外務省、基地建設と環境アセスメントの事業者である防衛省は、誠意を持って、正確な情報を条約事務局に提供することが、締約国として求められている。私たち環境・人権・平和に関わる団体も、日本政府が条約事務局へ誠実な回答を送ること、および、条約事務局が指摘しているように、辺野古・大浦湾は、正式にラムサール条約湿地に登録されてはいないが「国際的に重要な湿地」であると認めること、愛知ターゲット目標10にもとづき辺野古・大浦湾のサンゴ礁と海草藻場などの脆弱な生態系を保護することを要請する。

 来年の2015年6月には、ウルグアイにおいて、第12回ラムサール条約締約国会議が開催される。その際に、これまで長期にわたり、国内的にも国際的にもラムサール条約に多大な貢献をしてきた日本政府が、辺野古・大浦湾に関する回答においても、埋め立てと軍事基地建設の撤回を含み、世界の湿地保全と賢明な利用、地球の生物多様性保護に大きく貢献する内容であったと高く評価されることを期待している。
以上
声明文PDFファイル(上記と同内容)

2014年11月26日掲載