中池見湿地の新幹線問題をめぐる最近の動き

NPO法人 中池見ねっと 上野山雅子

 2012年7月に、ラムサール条約湿地に登録された中池見湿地ですが、その翌月には北陸新幹線がアセス時より湿地の内側に変更されたルートで認可され、関係者は大きな衝撃を受けました。その後、鉄道運輸機構は2013年11月に、専門家による中池見湿地付近環境事後調査検討委員会を設置しました。しかしそれと並行して、新北陸トンネルの敦賀側からの掘削工事も始められ、さらに政府・与党は北陸新幹線金沢─敦賀間の開業時期を2022年度に3年前倒しする方針を決めました。環境への影響が示唆されてもルート変更できる範囲は極めて狭く、その検討に費やす時間もない状況、そしてまさに北陸新幹線金沢開業に湧き上がる3月14日の翌日、事後調査検討委員会は2002年のアセスルートに戻す方向を示しました。

ramjnew19-nakaikemi-1.jpg
マーセル・シルビウス氏(左)の視察。後谷の北陸新幹線認可ルート建設予定地付近(2014年12月20日)
ramjnew19-nakaikemi-2.jpg
中池見湿地を視察中のシルビウス氏。道が雪解け時の増水で水没している

ramjnew19-nakaikemi-3.jpg

国際シンポジウムでのパネルディスカッション(2014年12月21日)

 この北陸新幹線問題が浮上してからこれまでに、さまざまな団体から湿地への影響を危惧しルートの見直しを求める声が挙げられています。昨年4月には環境省や国交省の担当者らと共に視察に訪れたラムサール条約事務局長クリストファー・ブリッグス氏が国の責任に触れ、議論を尽くし周辺環境にダメージを与えない建設ルートへ変更すべきと述べました。
 そして12月には、国際シンポジウム「ラムサール条約湿地でひらく地域の未来」(主催:日本自然保護協会、協力:ラムネットJ・ウェットランド中池見・中池見ねっと)が東京で開催されました。ゲストスピーカーとして招かれた泥炭地の研究者で国際湿地保全連合事業部長のマーセル・シルビウス氏は、中池見湿地は人類にとって重要な場所で自分もステークホルダーである、新旧どちらのルートも条約湿地を通ることには違いなく、第3の選択肢を考えてほしいと述べました。さらに後半のパネルディスカッションでは、国際的に重要な湿地への開発計画を一企業が担い、国も県も任せきりである現状を問題視、他のパネラーや会場からも、国はラムサール条約が目指す「全ての湿地の保全」のための十分な情報を持ちながら活かされていないこと、湿地保護のための法令がないことなどさまざまな課題が指摘されました。
 余談ですが、シルビウス氏はシンポジウムの前々日に敦賀市副市長と面談、前日には現地を視察し雪解けで増水した湿地の中をとても興味深げに歩かれた後、私たちが開催した「中池見フォーラム」に参加くださいました。小中高生らの研究や活動報告を熱心に見聞きしたシルビウス氏は大変感激した様子で、ぜひこの素晴らしい活動を続けてほしいと若い人たちに力強いエールを送られました。

ramjnew19-nakaikemi-4.jpg
中池見連続講座・地形編でのフィールドワーク(後谷)
ramjnew19-nakaikemi-5.jpg
生物多様性編のフィールドワークで採集したアオヤンマのヤゴ

 ラムサール登録から3年目の中池見湿地ですが、市民の間ではまだその重要性や価値についての理解は低いのが現状です。そこで昨年、ラムネットJのエコトーンプロジェクトの一環として中池見連続講座を開催。中池見湿地が10万年もの間、湿地であり続けられた非常にまれな条件について学ぶことができ大変好評を得ました。またこの講座のフィールドワーク中、20年ぶりに出現したアオヤンマのヤゴを確認するといううれしいおまけもつきました。
 最善ではないにしても最悪の認可ルートは避けられる見込みのついた北陸新幹線問題ですが、まだそのルートや工法・工事ヤードの詳細など、今後も注視し地元への説明を求めていく必要があります。このように、新幹線からザリガニまで中池見湿地の課題は多岐にわたりますが、それらに向き合い、いかに中池見湿地の豊かな自然を守り活かしていくか、現在、中池見湿地保全活用計画策定委員会での議論が進められています。この話し合いの場から、多くの人々を巻き込んでいく前向きなパワーを持った保全活用計画を生み出せるよう努力したいと思っています。

ラムネットJニュースレターVol.19より転載)

2015年05月30日掲載