高速道路の渡河橋建設を巡る吉野川河口の現状

とくしま自然観察の会/ラムネットJ理事 井口利枝子

 吉野川は、四国三郎とも呼ばれる大河川です。その河口は日本一の川幅を誇り、河口から第十堰の14.5kmまで、日本最大級の汽水域を有し、河口に広がる干潟は、シオマネキの群生地であり、また渡り鳥の重要な中継地として「東アジア・オーストラリア地域・チドリ類重要生息地ネットワーク」の参加地になっています。吉野川河口の生態系は、河口域から紀伊水道の漁場を支え、多くの生態系サービスを生み出す源です。さらに、環境省によるラムサール条約湿地潜在候補地に選定されるなど、自然環境の豊かさと生物多様性の高さは、国内外で認められています。
 しかし、川・海・陸が出会うという河口の地理的特性から法制度が複雑に絡み合い、また行政上の管轄も複雑に入り組んでいることから、河口汽水域環境の保全上さまざまな問題が発生しています。
 例えば、河口のごく狭い地域に、それぞれ異なる事業主による複数の開発事業(2本の道路橋建設、河口人工海浜建設)が集中しており、環境への複合的な悪影響が懸念されていますが、複合的環境影響評価は全くなされていません。

吉野川河口1
吉野川最河口の風景。この場所に高速道路橋が建設されると、広大な景観が失われます
吉野川河口2
シオマネキラリー(しらさぎ大橋干潟での観察会)

 現在、吉野川の河口から4.5km以内には、吉野川橋、吉野川大橋、阿波しらさぎ大橋(2012年完成)があり、それに加え、4本目の橋となる国内最長級の「四国横断自動車道吉野川渡河部建設事業」(以後、高速道路渡河橋)の着工が目前に迫っています。
 この高速道路渡河橋は次のような理由から、長年にわたり、県内外の市民団体が、建設に異論を唱えてきました。
(1)吉野川河口の空と海を背景とする広大な景観の喪失 
(2)複数の大型開発事業の集中による複合的・相乗的環境影響:河口生態系の連続性、生物多様性の低下および、その漁業・水産業、環境教育への影響など
(3)阿波しらさぎ大橋と高速道路渡河橋による渡り鳥の飛来数の減少や飛翔の妨害

吉野川河口の渡河橋

吉野川河口の渡河橋(作成:日本自然保護協会)

 11月30日には、NEXCO西日本の高速道路渡河橋建設に伴う環境対策が、あまりに杜撰であるため、とくしま自然観察の会、ラムネットJ、日本自然保護協会とWWFジャパンの4団体は、国土交通省に要望書を提出しました。高速道路渡河橋は、道路事業と、河川と海域の保全という複数の課題を抱えているため、水管理・国土保全局と道路局との密な連携と協力によって包括的に指導することが重要なのです。このことを踏まえて、私たちは、複合的環境影響評価の実施、ラムサール条約登録湿地として現在満たしている国際基準を損なわない環境保全措置の実施、環境保全措置の決定プロセスの改善など河口干潟への環境配慮や合意形成についてNEXCO西日本への指導を要望しています。
 貴重な公共財としての吉野川河口の変貌を、座視することはできません。吉野川は、市民参加による河川計画の方向性を示した誇りある川です。大変深刻な局面にある吉野川河口、その将来像を描くために今こそ、法制度を十二分に活用した市民参加の環境保全が、何よりも求められているのです。

ラムネットJニュースレターVol.22より転載)

2016年02月18日掲載