コウノトリ野生復帰の今、そして今後の展望

コウノトリ湿地ネット代表/ラムネットJ理事 佐竹節夫

 昨年(2015年)は、コウノトリ野生復帰が新たな段階に入った年でした。
 まずは豊岡市と周辺地。人工飼育個体の初放鳥から10年が過ぎ、放鳥や野外繁殖した個体の総数は約90羽になりました。うち、18羽がペアを形成し、その中には第2世代のペアもいます。取り組んできた湿地保全・再生が、一定の成果となって表れていると言ってもいいでしょう。しかし、一見、順調のように見えますが、ペア数でいえばこの4年間増えていません。まだ営巣できそうな空白エリアがあるのに、と思いますが、テリトリー意識が強い本種のこと、彼らにとってはもう豊岡のキャパが限界にきているのかもしれません。
 親元から少し距離を離して市内・周辺に留まっている若鳥たちは次々と性成熟年齢に達していますが、メスの数が多いために数々のトラブルが生じています。必然的にオスの取り合いとなり、ペアのメスを攻撃したり巣内のヒナ殺しに至ることもあります。メス同士でペアを組む(2組も)などは、「孤立した小集団」のなせる業かとやるせない気持ちにさせられます。
 そうこうしているうち、意を決した若鳥たちが次々と全国各地に飛翔するようになりました。注目すべきは、その飛翔力です。短期間で東北〜東海・信州〜中国・四国・九州地方を一気に飛び回る個体が続出しているのです。しかも、ついに3羽が韓国に渡り、全員長期滞在中です。こうして、40羽前後が豊岡を拠点にして遠出し、また戻る、を繰り返しています。

コウノトリ1
豊岡からの放鳥個体が徳島県鳴門市でペアを形成しました。餌場はレンコン畑。昨年は造巣まで進みましたので、今春の繁殖が期待されます(撮影:浅野由美子)
コウノトリ2
11月下旬、豊岡市内の日高町でも放棄田の湿地化作業がにぎやかに行われました

 昨年は豊岡・周辺以外から初めて放鳥が実施された年でもありました。千葉県野田市から3羽(1羽は死亡)、韓国イエサン郡から8羽、福井県越前市から2羽が相次いで野外に放されました。やはり放鳥個体たちの飛翔力はすさまじく、日本、韓国内を広範囲に飛翔しています(韓国放鳥の1羽は、12月に海を越えて沖永良部島へ飛来。その後死亡)。
 ここに至って、コウノトリ野生復帰はいくつかの特徴と課題が明白になってきました。
 1つは、本種の飛翔力を見ると、もはや自治体単位の視点では捉えられなくなったこと。当面は日本・韓国を視野に、将来的には東アジア全域を対象として取り組む必要があります。ますます、ラムネットJの役割が重要になってきますね。
 コウノトリがダイナミックに飛び回るのは、現在の日本があまりにも湿地破壊が進んでおり、仕方なく安住の地を求めてさまよっている、というのが実態でしょう。彼らがさまよう過程で、(1)何度も舞い降りる地域、(2)長期間滞在する地域が特定されだしたことが2つ目です。(1)は、いうまでもなく一定の良好な湿地=採餌環境が存在している所です。でも、それだけでは定着できません。(2)には、周囲の地形、農業、人とのバランスなどが加わります。上田市、和歌山市、鳴門市(今春、繁殖か?)、奄美大島、韓国最南部など10ほどの地域がそうです。
 そして3つ目は、舞い降りた地域のいくつかでは、即座にコウノトリ観察〜湿地・餌生物への関心〜総合的な取り組みへと発展していることです。

コウノトリ3
若鳥(3歳・♀)の飛翔事例。昨年9月までの記録ですが、12月からまた訪韓中です
コウノトリ4
昨年9月3日、イエサン郡の放鳥地で「日韓田んぼの生きもの調査交流会」が開催されました

 コウノトリが各地に飛来している状況は、これ以上水辺の破壊が進むと、もう日本ではコウノトリは棲めないことを警告していると同時に、今が湿地保全・再生の絶好のチャンスであることを訴えているのだと思います。
 私たちは豊岡で、コウノトリは人間が失った大切なものを気づかせてくれる鳥であることを何度も実感してきました。ぜひ、全国、東アジアに輪が広がることを期待しています。

ラムネットJニュースレターVol.22より転載)

2016年02月18日掲載