湿地巡り:タデ原湿原(大分県)

九重ふるさと自然学校 阿部秀幸

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 タデ原湿原は、大分県九重町に位置し、九州の屋根ともいわれるくじゅう連山の北側に広がる、面積約38haの湿原です。標高約1000mという山岳地域に形成された中間湿原としては、国内最大級の面積で、2005年11月に坊ガツル湿原(大分県竹田市)とともにラムサール条約に登録されました。約1万5000年前〜6300年前にかけて、火山活動によって形成された湿原で、湿原の中を流れる河川が運ぶ砂礫と、湿原堆積物によってできており、周囲からの湧水によって潤されています。標高が高いことから、平地に比べて気温も低く、サクラソウやリュウキンカ、エゾシロネなど、九州ではまれな北方要素植物が多く見られるのが特徴です。
 タデ原湿原の植生は遷移の過渡期にあり、日本の気候条件下では、次第に森林へと変化していくと思われます。その遷移を止め、湿原として保全しているのが毎年春に行われる野焼きです。かつては放牧のために、現在では湿原保全・文化継承のために、地域のボランティアによって野焼きが行われています。野焼きはタデ原湿原の保全に欠かせない活動であり、この地域の春の風物詩ともなっています。

夏の花に彩られ始めたタデ原湿原
夏の花に彩られ始めたタデ原湿原
野焼き
野焼き

 このように、人々が積極的に関わることで保全されてきたタデ原湿原ですが、近年、外来植物の侵入が見られ、中でも問題視されているのが特定外来生物であるオオハンゴンソウです。オオハンゴンソウは周囲を埋め尽くすように広がり、湿原の在来植物を圧迫する危険性があります。そこで、環境省や九重の自然を守る会、九重ふるさと自然学校などが連携し、駆除活動を行っています。
 タデ原湿原は人々の生活と関わりの深い湿原であり、その保全には人がいかに湿原に関わるかということが重要です。野焼きによって湿原を保全するのも外来植物を持ち込んでしまうのも人です。この貴重な湿原を未来に残していくために、湿原に関わる人、訪れる人が一体となった保全活動を継続していく必要があります。

オオハンゴンソウの駆除
オオハンゴンソウの駆除

ラムネットJニュースレターVol.23より転載)

2016年05月23日掲載