諫早湾開門をめぐる新たな動き

有明海再生策のまやかしを突破し、本当の和解を

有明海漁民・市民ネットワーク/ラムネットJ理事 陣内隆之

■和解を求める司法
 諫早湾潮受け堤防南北排水門の常時開放(以下、開門)を命じる判決が確定してから5年3カ月。国は、「相反する2つの義務がある」「最高裁の統一的判断を求める」などとして、開門をサボタージュし続けています。間接強制(国が判決を履行するまで原告に違約金を支払うこと)を認める決定が最高裁で確定した昨年1月以降も国は態度を変えず、制裁金(国民の税金です)の累積は4億円を超えています。決定の付言として最高裁は「全体的に紛争を解決する十分な努力が期待される」と国に自発的な努力を促しました。確定判決の執行停止を求める請求異議訴訟でも、国の主張は退けられ、現在福岡高裁で係争中です。
 その福岡高裁の審理で、昨年10月には和解勧告がなされ、ラムネットJをはじめとする環境団体でも和解協議の開始を求める共同声明を出しました。また、開門差し止め訴訟を審理している長崎地裁からも「第三の道はないのか」と打診があり、仮処分決定に対する国の異議を却下した後(昨年11月)には、すべての関係者が協議承諾なら和解案の用意があることが示されました。

諫早湾の北部排水門
諫早湾の北部排水門
長崎地裁への要請行動
長崎地裁への要請行動の後に、長崎県庁の記者クラブで行った漁民ネットの会見の様子。和解協議に関する声明などの情報は以下のホームページをご覧ください。http://www.ariake-gyomin.net/

■「開門しないことを前提とする」和解案
 和解を求める司法に対し、かたくなに話し合いを拒否してきた開門阻止派は、年明けになって和解協議に応じる姿勢を示しました。開門阻止派の参加が期待できないことを盾に、勧告に難色を示し続けてきた国も、阻止派の動きに呼応して態度を転換しました。このような流れを受けて、1月18日に長崎地裁は関係者に対して和解案を示しました。
 ところが、その和解案は、開門しないことを前提とし、有明海再生策の実施と解決金の支払いを開門の代替とするものでした。2004年度から中長期開門調査に代わる対策として行われている有明海再生策は、農水省予算だけで430億円余りを費やし、調整池の水質改善事業費も加えると累計1000億円にもなろうとしています。しかし、調整池の水質は改善されず(下図参照)、有明海の漁業被害は深刻化する一方です。漁民側としてこの和解案は到底呑めるものではありません。国・開門阻止派の言い分を丸呑みした長崎地裁の和解案に対して、漁民側原告弁護団は激しく抗議し、有明海漁民・市民ネットワーク(漁民ネット)でも声明を発表し長崎地裁に直接手渡しました。
 「開門か非開門か」ではなく、農業も漁業も安心してできるようにするにはどうすべきかを話し合うことが本来の和解協議のはずです。「開門に伴う被害発生のおそれ」は、主に台風時以外の潮風害など限定的であり、十分な対策を講じることで回避可能であることが長崎地裁の審理でも明らかになっています。和解案は最高裁ひいては官邸サイドからの声を受けたものと推察されますが、司法自らが確定判決を無力化し行政の暴走に手を貸すことは、司法の存立意義を自ら失わせるものであり、国民全体の問題として抗議の声を結集していかなければなりません。

調整池水質
調整池流域の汚水処理施設は年々普及していますが(左)、調整池の水質(COD)は全く改善されていません(右)。窒素やリン、懸濁物の濃度も同様です


■国の下請けと化す、有明海・八代海等総合調査評価委員会
 真の有明海再生のためには、異変の原因を明らかにし、これに対する対策を根本から実行しなければなりません。環境省の評価委員会では、今年度内に最終報告をまとめるとしていますが、この委員会でも諫早湾閉め切りの影響はタブー視され、長崎県のタイラギ漁が1993年以降連続休漁となっていることの原因究明も行われていません。評価委員会がこれまでの国の有明海再生策を追認する報告を行い、国がこれを利用することが懸念されます。
 和解協議では、次回以降に国が具体的な有明海再生策を示すよう求められていますが、回答不能をごまかし時間稼ぎに終始する国に対して、開門に触れない有明海再生策は絵空事にすぎないことなど、各方面から声を上げていく必要があります。農漁共存の本来的な和解へと協議を進展させるために、皆さまのご支援・ご協力を今後ともよろしくお願いします。

ラムネットJニュースレターVol.23より転載)

2016年05月23日掲載