タンチョウの現状と保護活動

タンチョウ保護研究グループ理事長 百瀬邦和

 北海道のタンチョウは主に釧路地方で行われている給餌活動によって数が増えてきました。さらに近年は釧路・根室地方の主要産業である酪農場を餌場にすることによって小規模な湿地でも繁殖するようになり、生息数の増加は今も続いています。しかし、それでも大陸を合わせた世界の総数は3300〜3500羽程に過ぎません。
 タンチョウ保護研究グループはタンチョウの調査・研究と、それを基にした保護活動や提言を行うという基本姿勢のもと、巣の分布と数とを確認する繁殖状況調査、最新の生息数を確認する総数調査、寿命や生存率などを調べる標識調査、多くの人にタンチョウについて理解を深めてもらうための講演会や出版、アジアに生息するツル類に関係する人や団体とのネットワークを推進する活動を行っています。

乳牛の放牧場は餌場の一部になっている
乳牛の放牧場は餌場の一部になっている
標識調査:放鳥したヒナに合流する親ツル
標識調査:放鳥したヒナに合流する親ツル

 北海道ではタンチョウが餌を求めて牛舎に出入りしたり、畑作物を荒したりと農業者とのトラブルが起きるようになっています。牧場などの人工環境は時にタンチョウにとっては危険な場所でもありますから、自然の中では起こらない各種の事故が起こるなど、人に近づきすぎることでタンチョウ自身もリスクを抱えています。また、大陸の主な越冬地である朝鮮半島の非武装地帯が政治的に不安定な状況であることなどを考慮すると、タンチョウという種は依然として絶滅危惧の状態です。

高所作業車を使った冬の行動追跡

高所作業車を使った冬の行動追跡

 今、タンチョウ保護活動の現場では絶滅を回避するために続けてきた緊急措置事業から、保護活動を不要にするための将来設計をどうするべきかという議論が始まっています。多くの個体が集中している道東地方から北海道全体、さらには本州まで生息域が広がることは未来像の一つでしょう。すでにオホーツク海沿岸、さらに道北地方は繁殖地として定着してきましたし、また、日高山脈を越えて道央の勇払原野にも広がる気配を見せています。新たに分布が広がり始めた地方では、タンチョウがどんな鳥なのか、どのようにつき合ったら良いのか、地元にとってプラス面とマイナス面は何なのかを知ろうとする勉強会を始めた所があります。分布を広げ始めているタンチョウが新しい場所で受け入れられるよう、私たちはタンチョウに関する情報を提供するという形で関係者に協力しています。分布拡大の最前線での今回のエコトーン・プロジェクトによる調査活動は、こうした動きの中で非常に有意義なものとなっています。

2016年11月19日掲載