アジア湿地シンポジウムに関連した取り組み

 ラムサール・ネットワーク日本(ラムネットJ)は、11月7日から佐賀市で開催されるアジア湿地シンポジウム(AWS)に参加し、口頭/ポスター発表やブース展示などを行います。
 ラムネットJでは、9月に韓国で開催した第12回日韓NGO湿地フォーラムにおいて、韓国湿地NGOネットワーク(KWNN)、世界湿地ネットワーク(WWN)と共同で、AWSに向けた提言(別紙)を取りまとめました。この提言では、諫早湾干拓事業をはじめとする水の流れを阻む人工物建設が湿地破壊をもたらす大きな要因であることを問題として提起しました。AWSで採択される予定の佐賀宣言(Saga Statement)に、提言の内容が反映されるよう、このシンポジウムの中でアピールしていきます。
 また、この提言に関連してラムネットJでは、有明海漁民・市民ネットワーク(漁民ネット)がAWSに合わせて独自に開催するシンポジウム「諫早湾干拓がもたらした有明海漁業の衰退」(下記参照)を後援しています。このシンポジウムでは、海外の湿地関係者にも関心の高い諫早湾干拓問題について、英語通訳入りで研究者や漁業者が報告します。

アジア湿地シンポジウム
●日程・場所:11月7日(火)〜10日(金)ホテルグランデはがくれ(佐賀市)
       11日11日(土)佐賀市立東与賀文化ホール
●詳 細:http://aws2017.org/jp/index.html

シンポジウム「諫早湾干拓がもたらした有明海漁業の衰退」
●日 時:11月9日(木)19:00〜21:30
●場 所:アバンセ 4階 第3研修室 佐賀市天神3-2-11 どんどんどんの森内
●主 催:有明海漁民・市民ネットワーク/諫早湾開門研究者会議
●後 援:ラムサール・ネットワーク日本
●詳 細:http://www.ariake-gyomin.net/info/171109sympo.html

アジア湿地シンポジウム2017に向けた日韓NGOからの提言
PDFファイル(日韓英3カ国語版)
・日本語での提言は以下のとおりです。



アジア湿地シンポジウム2017に向けた日韓NGOからの提言

ラムサール・ネットワーク日本
韓国湿地NGOネットワーク
世界湿地ネットワーク

私たちは、日本、韓国そして世界の各地で湿地の保全に取り組む市民グループのネットワーク団体です。私たちは、今回のアジア湿地シンポジウム2017が、有明海奥部に位置する佐賀市で開催されることを心から歓迎します。

有明海は、多種多様な水産資源を育む生物生産性の高い海域であるとともに、国際的にも重要な渡り鳥の渡来地です。多くの人々が有明海の恵みを生活の基盤とし、その自然環境の上に地域社会の豊かな生活文化が継承されてきました。その意味で、有明海は、東アジアにおける代表的な国際的重要湿地の一つであり、ラムサール条約がめざす「湿地の賢明な利用」が実践されてきた地域でもあります。

しかし、現状は、諫早湾干拓事業などにより広大な干潟が消滅したことをはじめ、河口堰の建設や港湾整備、河川における大規模な砂利採取などの開発行為によって,有明海の重要な干潟・湿地に深刻なダメージが与えられてきました。

これらにより、有明海異変と言われる漁業被害が深刻化し、中でも魚や貝を獲る漁船漁業は壊滅的な状況にあります。日本政府および自治体は、様々な調査研究や環境改善事業を実施していますが、局所的な漁場改善や養殖技術の実験にとどまっており、根本的な解決には至っていません。科学的な見地から、有明海再生のために諫早湾潮受け堤防の水門を開放し、大きな海水交換を行うことが司法から要請されていますが、政治的な力によって実現できないでいます。

このことは、日本政府が湿地の重要性を十分に認識せず、政治的な思惑から湿地の管理における「賢明な利用」に背を向けた結果です。アジア湿地シンポジウム2017が有明海に面する佐賀市で開催されるにあたり、こうした有明海の現状に対する危機感が第一に共有されなければなりません。

有明海において、荒尾干潟、肥前鹿島干潟、東よか干潟の3カ所がラムサール条約湿地に登録されたことは歓迎すべきことです。しかし、それらを優に凌ぐほどに多様な生態系サービスを私たちにもたらしていた諫早湾干潟を大規模な開発行為によって失ってしまったことへの反省を忘れてはなりません。「すべての湿地を保全し賢明に利用する」というラムサール条約の本来の主旨を改めて確認し、自然の力を活用して諫早湾干潟をできる限り復元し、3カ所の登録湿地を拠点に有明海全体の保全をめざすことが不可欠です。

有明海にとどまらず、日本では多くの湿地が劣化傾向にあります。その要因の半数以上は開発などの人間活動です。埋め立て、護岸整備、ダム・堰、複式干拓などです。それらはいずれも、水の流れを阻む人工物建設と言う共通項があります。沖縄の泡瀬干潟は、人工島建設により海流が滞留し、干潟が著しく劣化してしまいました。辺野古の海では、国際的にも重要な湿地を埋め立てる新基地建設が進んでいます。また、長崎県の石木ダム建設は、そこに住み続ける人々の持続的な生活と豊かな自然環境に大きな脅威となっています。

韓国でも同様です。4大河川事業や河口堰建設が、各地で深刻な水質悪化を招き、流域の生態系を破壊しています。また、世界5大干潟の一つとも言える西海岸の干潟群では、セマングム干拓事業をはじめとする開発により湿地破壊が各地で進み、今またファソン湿地が、海水交換を不可能にする複数の開発計画で脅かされています。そして、アジア全域でもこのような開発により湿地破壊が進んでいます。

一方、日本の荒瀬ダム撤去や韓国シファ湖の水門開放など、水の流れを回復することにより自然再生が進んでいます。また、日本の長良川では愛知県が、韓国のナクトンガンではプサン市が、河口堰の水門開放の検討を推し進めています。

湿地は水の流れと密接な関係にあり、アジア湿地シンポジウム2017では、水の流れを阻む人工物建設が湿地破壊をもたらす大きな要因の一つであるという視点から議論を深めることが重要です。

私たちは、アジア湿地シンポジウム2017が、有明海をはじめアジア各地の湿地保全に真剣に貢献することに強く期待し、私たちの提言が真摯に検討されることを切に願います。

2017年9月24日

2017年11月02日掲載