報告:ラムサール条約COP13(UAE・ドバイ)

 「湿地、持続的な都市の未来のために」という主題で、2018年10月21日(日)〜29日(月)、ラムサール条約第13回締約国会議(COP13)が開かれました。締約国170か国のうち143か国の代表を含む1360人以上の参加者が、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイのドバイ・フェスティバルアリーナに集まりました。中東の砂漠の、オイルマネーで作られた街で湿地の会議とは、という思いもありました。街中では街路樹への給水パイプや運河など砂漠の都市であることを忘れるほどです。一方、街の外に出ると涸れ川(ワディ)の水路が切り立つ100mの岸の底にあり、水の浸食が続いていて、そこは生きものたちの生息地となっています。現地に来て改めて主題とのつながりが見えてきます。
 このCOPは、一つの節目の会議でした。条約締結50周年となるCOP14を前に、第4次戦略計画(2016〜2024年)採択後初のCOP。国連生物多様性の10年と愛知目標最後のCOP。国連持続可能開発目標SDGs開始後初のCOP。条約発足後初の中東でのCOP。事務局長を含む多くの新しい事務局員にとっての最初のCOPでした。日本と韓国の政府・NGOにとっては水田に関する決議X.31採択10年の節目でした。
 運営に関する議題は、条約運営の効率化に関する対立する決議案が提出され、制度疲労が浮き彫りにされました。議論の結果、6つの作業部会などが廃止される一方、効率化作業部会が新設され制度改革はこの部会で次回に向け議論されることになりました。一方、条約の実施に関する決議案の多くがs、愛知目標、気候変動を引用し、発言でも国連・多国間環境条約ほか世界的な問題に協力して取り組む姿勢が示されました。潮間帯湿地保全・ウミガメ生息地保全・湿地と農業などを含む最終決議が、言葉だけでなく、確実に実施されることが必要です。そのためには、政府だけでなく、自治体、地域住民、市民団体、NGO/NPOの協力が欠かせません。
(柏木 実)

ラムサールCOP13ロゴ
本会議の様子
本会議の様子

●プレCOP NGOミーティング
 湿地を守るNGOが作る世界的なネットワークである世界湿地ネットワーク(WWN)の主催、ラムネットJの共催による「プレCOP NGOミーティング」が、10月22日にドバイ市内のアドミラルプラザホテルで開催されました。
 最初にWWN代表のルイーズ・ダフさんからWWNについての説明がありました。続いて3月まで条約のアジア・オセアニア上席担当官だったルー・ヤンさん(東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ事務局長)から、NGOのCOPへの取り組み方について、決議案や国別報告書に目を通し、政府とNGOの認識の差についてCOPで指摘するようにアドバイスをいただきました。
 今回は通常の会議と違って、参加者同士の交流のためのアクティビティを入れました。まず最初のアクティビティとして、参加者51名の間での自己紹介セッションを設け、多くの人と交流できるようにしました。次のアクティビティは自国のラムサール条約湿地の状態について、「良い状態にある」と思う人は部屋の前に集まり、「悪い状態にある」と思う人は部屋の後ろに集まるというものでした。自国の条約湿地の保全の状況についてどの国や立場の人がどのように認識しているか見ることができました。
 続いて、全体会議で発表されるNGOステートメント(声明)について、参加者の間で意見を出し合って検討しました。そのあとUAEのジャッキー・ジュダスさんが「中東の湿地とNGO活動について」と題し、UAEの自然のことや環境NGOの活動などについて説明しました。
 WWNは2008年に韓国でのCOPの際に結成されたネットワークです。あれからちょうど10年になります。10歳になったWWNをお祝いするバースデーケーキを用意して、みんなで食べました。これからも湿地を守る活動を一緒に進めていく仲間の人たちと良い交流ができました。
(安部真理子)

登録認定証授与式
登録認定証授与式の様子。今回のCOPに合わせて、志津川湾、葛西海浜公園のラムサール条約湿地登録と円山川下流域・周辺水田の登録区域拡張が認定された。
プレCOP NGOミーティング
プレCOP NGOミーティングでの記念撮影。中央にあるのがWWN10周年のバースデーケーキ。

●サイドイベント「水田決議これからの10年」
 このサイドイベントは日本環境省、韓国環境部が主催し、慶尚南道ラムサール環境財団(GREF)、日本農林水産省、ラムネットJの共催で開催されました。
 今回のサイドイベントの目的は、ラムサール条約COP10で採択された水田決議から10年が経ったことを受け、田んぼの生物多様性向上をめざす取り組みの進展と課題を見直し、特に水田と密接な関係を持つアジア、アフリカ、中南米などの地域に水田の重要性をアピールし、持続可能な未来の都市部、気候変動、貧困、食糧安全保障を含め、SDGsや愛知目標などの新しいグローバルな目標を組み込んだ、今後10年間の行動を提起し議論することでした。
 環境省の堀上勝さんの開会挨拶のあと、環境省の市川智子さんより趣旨説明があり、続いて日本と韓国における水田決議の実施の経過と課題について、ラムネットJの呉地正行さんと韓国環境部のイー・ジョンファンさんが説明しました。また、GREFのイー・ヨンソさんと韓国水田生態系ネットワークのイム・ジョムヒャンさんより事例報告がなされました。
 呉地さんより、主要な課題として気候変動と水田の生物多様性の問題があることが提起され、ウガンダの雨季の変動と高温、病害虫による被害の事例がウガンダ水環境局のポール・マファビさんより、水田の多面的役割と都市部での維持についての事例が農林水産省の滝克也さんより、水田の生物多様性に支えられた食資源についての事例が、FAOのエドゥアルド・マンスールさんより報告されました。
 会議の時間が75分しかなく、十分な討論はできませんでしたが、会場からは熱心に質問される方もおり、100人ほどの参加者で会場には入りきれないほどの盛況でした。日本と韓国だけでなく、たいへん多くの国から参加があり、この問題に対するインターナショナルな関心の高さを感じました。
(高橋 久)

サイドイベント「水田決議これからの10年」
サイドイベント「水田決議これからの10年」
サイドイベント「水の自然な流れ」
サイドイベント「水の自然な流れ」

●サイドイベント「水の自然な流れ」
 10月26日にラムネットJ、韓国湿地NGOネットワーク、WWNの主催によるサイドイベント「水の自然な流れ─決議とガイドラインは活かされているか?」が開かれました。50人ほどの会場でしたが、ほぼ埋まったように見える状態で、日本と韓国の関係者が多かったものの、東アジア系以外の方もけっこういて、このテーマの普遍性をうかがわせました。
 最初はラムネットJの陣内隆之さんからの趣旨説明と日本の状況に関する報告で、問題の多い現状をアピールしました。次は韓国のキム・キョンチョルさんの報告「四大河川事業」で、壊滅的な状況となった川の様子と、政権が変わって修復が進み、改善されつつある現状が報告されました。特に当日朝にプサン市長から「ナクトンガン(洛東江)を来年ラムサール登録する」という表明があったことに言及し、今後への期待を持たせてくれました。韓国からの2本目はファソン市副市長のファン・ソンテさんによるファソン干潟の報告とビデオの上映で、かつてのセマングムを想起させるような映像に見とれるばかり。
 最後はイギリス西部の川の環境再生の事例報告で、水鳥湿地トラスト(WWT)のジェームズ・ロビンソン氏。計画的な管理のもとで湿地を再生した好事例に、いくつかの質問が寄せられました。
 サイドイベントはそれをやったからすぐに何かが大きく動くというものではありませんが、やはりこのような機会を通しての情報発信・交流は重要であることを実感しました。特に韓国ナクトンガンの明るいニュースには元気づけられました。長良川も早く流れを取り戻せるよう行動を続けたいと改めて思いました。
(亀井浩次)

ラムネットJのブース
ラムネットJのブース
折り紙
折り紙

●展示ブースでの活動
 ラムネットJでは、これまでのCOP同様、会期中ブースを設けポスターや配布物などで活動の紹介を行いました。10月23日の朝から設営し、田んぼ10年プロジェクトや湿地のグリーンウェイブの展示物、各地から寄せられた湿地紹介ポスターなどを重ならんばかりに貼り、おなじみ(株)アレフさんの「ふゆみずタンゴ」を小型モニターで再生するなど、にぎやかなブースになりました。
 通る人に立ち止まっていただくために、和紙の折り紙などを用意して、一緒に折りながら楽しんでいただき、ラムネットJの活動をお話ししたり、サイドイベントのチラシを配ってお誘いするなどしました。実は日本からのブースも多く出展されていて、しかもどこも折り鶴をしていたようです。そのうち、ツルはいいからカエルを教えて!というリクエストの方が増え、湿地の会議だけにやはりカエルだろうとジャンピングフロッグの折り方を覚えていったのが役に立ちました(笑)。
 他所のブースの多くは、ポスターやパネル、中には大き目サイズの液晶モニターで活動紹介などをしているところもありましたが、私が心引かれたのは、イラクの湿地再生センターのブースに並べられていた草を丁寧に編んだ小物たち。イラクの女性たちが作っているというそれらの小物は日本の民具にも似て、自分たちも湿地の恵みを大いに活かしたいという思いが膨らみました。
 ちなみに、ブースのある場所のすぐ外には水辺があり、そこでアオサギ、クロサギ、チュウサギ、コサギ、アオアシシギやケリの仲間など、日本でおなじみの鳥からめったに見られない鳥まで楽しむことができました。
(上野山雅子)

ラムネットJニュースレターVol.33より転載)

2018年12月15日掲載