藤前干潟保全から20年

藤前干潟を守る会理事長/ラムネットJ理事 亀井浩次

 1998年12月、吹上ホールで開かれた「国際湿地シンポジウム」(日本湿地ネットワーク主催)の場で、会場発言として環境省からの参加者が「名古屋市が提案している人工干潟は代替案として認められない」と言明し、それが転機となって藤前干潟の埋め立て計画中止・保全が実現しました。あれから20年になります。
 名古屋市が港の一角、庄内川河口の「西一区」に廃棄物の最終処分場建設計画を発表したのが1984年、当時使用していた愛岐処分場の残容量逼迫を受けての計画でした。同所は一部のバードウォッチャーの間でシギ・チドリの飛来地として知られていて、彼らを中心として反対運動が始まり、それが「藤前干潟(陸地部分の地名をとって命名)を守る会」として活動を開始するのが1987年、伊良湖岬のタカの渡り調査などで知られていた辻淳夫さん(藤前干潟を守る会前代表)を中心として名古屋市を相手に保全活動を展開しました。ちょうど全国的に「自然と開発」をめぐる問題が頻発していた時期で、諫早湾干拓や長良川河口堰などの大規模事業と並んで社会的な関心を集めました。批判をうけて市は埋め立て面積の縮小や代替案の提案などをしながら事業を強行しようとしましたが、最終的に冒頭のような形で結着をみることになります。

藤前干潟
藤前干潟
藤前干潟のアナジャコ
藤前干潟のアナジャコ

 この20年の変化を考えると、まさに隔世の感があります。まず2002年に藤前干潟がラムサール条約登録地となり、2005年には稲永ビジターセンター・藤前活動センターが環境省の現地施設として設置されました。それまで堤防下の草地(現在駐車場)で水場もトイレもなく(途中から仮設で設置)活動していたのが飛躍的に便利になりました。また私たち「藤前干潟を守る会」は任意団体から2003年にNPO法人となり、両センターの運営業務を担ってそれを活動の大きな柱とするようになりました。来訪者の増加に対応するため、スタッフの育成・研修を目的に2002年から始めた「ガタレンジャー養成講座」は修了者が100名を超え、現在のスタッフの大半がこの講座を機に活動に加わったことになります。また、2009年に開始した「ガタレンジャーJr.プログラム」も毎回多くの参加者を集め、着実に次世代の担い手を増やしつつあります。漂着ゴミ・不法投棄ゴミの回収活動から始まった「クリーン作戦」は流域全体を巻き込んだイベントとして定着し、さらに「奈佐の浜プロジェクト」として伊勢湾全体のゴミ問題を考える活動に発展しました。

観察会の様子
観察会の様子
稲永ビジターセンター
稲永ビジターセンター

 行政の動きとしては、名古屋市は埋め立て計画断念に続けて「ごみ非常事態宣言」で分別回収の実施など、ごみ(特に埋め立てごみ)減量の施策を打ち出し、同時に市民への啓発活動を強化して「環境都市」をめざすという方針転換を行います。2005年の「愛知万博」開催の勢いをかりて2010年には「生物多様性COP10」を誘致し、さらに2014年の「ESDユネスコ世界会議」へと続けて環境重視の流れを明確にしました。また2005年から市民参加の環境学習プログラム「なごや環境大学」を開催したり、COP10後に「生物多様性センター」を設置したりと、環境施策を充実させてきました。これらはすべて「藤前干潟の保全」を契機として政策を大転換した結果実現したもので、その原動力となったのはあきらめることなく「保全」を訴え続けてきた私たちの活動であると自負しています。
 というのがこの20年を俯瞰しての感慨、ということになりますが、もちろんいいことばかりではありません。制度的には保全されているにもかかわらず、藤前の自然状態は明らかに劣化しています。渡り鳥の減少は驚くほどで、冬の風物詩であったハマシギの群飛もほんの小規模にしか見られません。夏場あんなに普通にいたコアジサシがまったく見られなくなることなど、想像もできませんでした。ごみ処分場にならなかったとはいえ漂着ごみはあいかわらず多く、日々供給されるため回収が追いつかない。さらに「マイクロプラスチック」などの新たな問題もあって果てのない戦い、といった印象です。
 辻淳夫前代表(個人的には彼が病気により活動できなくなったことが最大の変化)が保全成功後の次なる目標として構想した「伊勢三河湾流域圏の環境再生」もなかなか進まず、その重要な要素である「長良川河口堰の開門」や「木曽岬干拓地の再自然化」も実現の見通しが立ちません。
 藤前干潟の保全から20年、その間のよくなった点は評価し、悪化したり進展のない点については課題を分析しつつ、さらに活動を続けていきたいと思います。さて20年後の変化はどうなっているでしょうか。

ラムネットJニュースレターVol.35より転載)

2019年05月01日掲載