石木ダム建設事業の中止を求める意見書

 ラムサール・ネットワーク日本(ラムネットJ)は2019年8月29日、下記の「石木ダム建設事業の中止を求める意見書」を、長崎県知事と佐世保市長に提出しました。

2019年8月29日
長崎県知事  中村 法道 様
佐世保市長  朝長 則男 様

石木ダム建設事業の中止を求める意見書

NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本
共同代表 上野山 雅子
金井   裕
陣内  隆之
髙橋   久
永井  光弘

 ラムサール・ネットワーク日本(以下「ラムネットJ」という)は、地域の草の根グループと連携し、湿地にかかわるNGOのネットワークを運営し、湿地保全に関する国際条約であるラムサール条約にもとづく考え方・方法により、すべての湿地の保全、再生、賢明な利用を実現することを目的とする団体です。
 ラムネットJは、去る8月25日に、元ラムサール条約事務局次長のニック・デイビッドソン教授らの報告者を招聘し、東京で設立10周年記念シンポジウムを開催しました。シンポジウムでは、デイビッドソン教授の講演をはじめ、荒瀬ダム撤去事例の報告や、韓国の4大河川再自然化事例の報告などを受け、河川にダムや堰などをつくらず"水の自然な流れ"を守っていくことの重要性を再確認しました。
 また、このシンポジウムに先立ち、8月22〜23日の2日間、日本の湿地保全や再生、開発の問題の事例として、長崎県の石木ダム建設予定地や諫早湾、熊本県の川辺川・球磨川流域をデイビッドソン教授と共に視察しました。石木ダム建設事務所では「ダム建設が一番費用が安く効果的で、環境影響評価でも問題はなかった」などの説明を受けましたが、地元住民の説明や工事現場、棚田が広がる原風景、石木川の自然や子ども達の川遊びの様子、更には荒瀬ダム撤去を実現した川辺川・球磨川との対比を通じて、ダム建設が与える影響を肌で感じ、河川をはじめとする水の自然な流れが自然環境の保全に不可欠であることを再認識できました。
 このような中、貴県と貴市は、いまも地権者13世帯が暮らしているにもかかわらず、家屋を除く土地を明け渡す期限を9月19日として、石木ダム建設事業を推し進めています。地権者の人権を踏みつけにする貴県と貴市の姿勢は断じて許されず、ラムネットJはここに強く抗議します。ラムサール条約の決議Ⅷ.2では、同決議Ⅶ.8「湿地管理への地域社会及び先住民の参加を確立するためのガイドライン」を実施することを強く要請し、まさにダムにより住処を奪われる人々の計画段階での参加を強く求めています。
 また、ラムサール条約決議には、河川流域管理に関するガイドライン(決議Ⅷ.1)の中で『水の流れは、自然の生態を維持できるように、自然の水循環にできるだけ近い形にしなければならない。』と記述するなど、水の自然な流れを守ることを要請する決議やガイドラインが数多くあります。さらに、決議Ⅹ.19付属書のガイドラインでは、事前の事業評価について、第三者の視点から客観的かつ公正に行うこと等も求めています。締約国は履行義務を負っており、ラムサール条約決議の遵守という観点からも石木ダム建設事業は中止されなければなりません。
 同事業に必要性がないことや自然環境への影響、事業手続きの不当性などについて、ラムネットJは従前から指摘していたところですが、デイビッドソン教授も、石木ダム建設事業について、(1)計画から40年以上経ち状況は大きく変化しており、利水などの事業目的は破綻している (2)絶滅危惧種や希少種など多様な生物が生息している実態が環境影響評価には反映されておらず、事業実施が前提の不誠実なアセスメントになっている (3)持続的に営まれている地元住民の生活や自然を守ることがラムサール条約で唱えるワイズユースである などを理由に、石木ダムは不要との立場を明言しています。
 石木ダム建設事業は、"水の自然な流れ"を阻害し、とりわけそこに現に住む人々の故郷を奪って立退きを強制し、川や田んぼという湿地の「賢明な利用」に反しており、数々のラムサール決議の精神と全く相いれないことは明らかです。
 石木ダムの問題は、全国の湿地保全の問題の中でも極めて重要かつ緊急です。ラムネットJは、全ての湿地の保全、再生、賢明な利用を推し進め、これを体現するラムサール条約決議の内容を広く発信し遵守を求める立場から、石木ダム建設予定地で今まさに立退きの危機にさらされている住民の方々と連帯し、貴県と貴市に対し、石木ダム建設事業を即時に中止すべきことを、ここに強く求めます。
以上

2019年08月29日掲載