上関原発計画予定地におけるボーリング工事の中止を求める要請

 ラムサール・ネットワーク日本は、2019年11月19日、中国電力と山口県に対して下記の「上関原発計画予定地におけるボーリング工事の中止を求める要請」を提出しました。


2019年11月19日
中国電力株式会社 代表取締役 清水希茂 様
山口県知事 村岡嗣政 様

上関原発計画予定地におけるボーリング工事の中止を求める要請

特定非営利活動法人ラムサール・ネットワーク日本
http://www.ramnet-j.org

1.私たちラムサール・ネットワーク日本は、日本各地で干潟・湿地の保全に取り組む市民グループのネットワーク組織であり、ラムサール条約が掲げる、湿地の「賢明な利用」の推進を目的として活動しています。

2.今般、中国電力は、上関原発予定地西側の海域において、11月14日から来年1月30日まで、海底の断層調査のためのボーリング工事を実施すると発表しました。
 上関原発建設が計画されている山口県上関町田ノ浦周辺は、瀬戸内海沿岸域の中でも、黒潮の影響を受ける地理的な特徴を持ち、生物多様性が極めて高く「奇跡の海」と称されるエリアであることが、地元の「上関の自然を守る会」や多くの研究者の調査で明らかにされています。上関原発計画の環境影響評価が不十分なものであることは、日本生態学会1、日本鳥学会2、日本ベントス学会3からも厳しく指摘されてきました。
 私たち、ラムサール・ネットワーク日本としても、上関原発計画の予定地周辺は、海と陸を行き来する生物が多く生息しており、また、陸域からの伏流水が田ノ浦湾内で湧出していることからも、本来、海域から陸域への連続したエコトーン(移行帯)として保全することが最優先されるべきエリアだと考えています。

3.一方で、上関原発計画については、2011年3月の東日本大震災・福島原発事故を受け、政府としての原子力規制のあり方が根本的に見直され、新規立地である上関原発は、建設の見通しがまったく立たない状況になっています。中国電力は、上関原発が2001年に国の電源開発基本計画に組み入れられ、これが現在でも有効だと強調していますが、中国電力自身の電力供給計画の中でも、上関原発の建設開始時期も運転開始の時期も明示されていません。
 そもそも政府のエネルギー基本計画でも、原発の新規建設には、一切言及がありません。今年6月19日の衆議院経済産業委員会での立憲民主党の宮川伸議員からの質問に対し、当時の世耕弘成経産大臣は、原発の新増設・リプレースは「現時点において想定していない」と明確に述べており、上関原発建設計画は、もはや、公有水面を埋め立てる根拠としての社会的な正当性を失っています。いわんや、今回、中国電力が実施しようとしている「発電所の安全・安心につながる追加地質調査」が、いま緊急に必要だという理由はまったく見当たりません。
 海底を掘削するボーリング調査は、調査自体が環境に大きな影響を及ぼす懸念があります。地元の漁師は騒音で魚が逃げることを懸念し、また、他の事例を見ても、調査自体がそこに多数生息している絶滅危惧種をはじめとする、生物多様性の豊かさを支える足場を破壊することは否めません。
 それにもかかわらず、海底を掘削するボーリング調査を無造作に実施しようとする中国電力は、この海域の生物多様性の豊かさ、重要さをまったく理解していないという他なく、ラムサール・ネットワーク日本は、中国電力に対して直ちにボーリング工事の計画を撤回するよう求めます。

4.山口県知事においては、公有水面埋め立て免許者として2008年10月に許可した埋め立て工事について、当初、工事着手から3年以内に竣工することを命じていました。実際の工事は、2009年10月の着工から3年後の2012年10月までに竣工せず、前記の通り、2011年の福島原発事故後は、政府としても、原発の新増設について、まったく方針を示せない状況になった以上、山口県は、公有水面埋立法34条2号にしたがい、中国電力の埋め立て免許を失効させるべきでしたが、山口県は、中国電力の免許期間延長の申請を認めてきました。そのことが、このように必要性も緊急性もない海底ボーリング工事に根拠を与えてしまい、本来、保全されるべき海域に、まったく必要のないダメージが与えられようとするきっかけを作っていることにおいて、山口県知事の責任は極めて重大です。
 山口県議会では、2011年6月に、「原子力発電所の安全対策の強化等を求める意見書」4が採択されていますが、その中でも、「本県においては、上関町における原子力発電所の建設が計画されているが、国の責任において、国全体のエネルギー政策の見直しの中で、上関を含む原子力発電所の新増設計画の位置づけの明確化や万全な安全体制の確立など、下記に掲げる諸課題の解決がなされない限り、本建設計画を一時凍結せざるを得ない状況と考える」とされており、埋め立て免許の延長および今回のボーリング工事の容認は、山口県議会の意見にも反するものです。
 さらに、山口県知事は、今年7月に中国電力に埋め立て免許の延長を認めた際に、2019年7月26日付「上関原子力発電所建設予定地の埋め立て工事について(要請)」5において、「発電所本体の着工時期の見通しがつくまでは、埋め立て工事を施行しないこと」と中国電力に要請しています。一方で、今回のボーリング工事ついては、中国電力に対し、工事海域の占用許可を認めています。このような山口県の無責任かつ一貫性のない対応が、問題を混乱させているのは明らかです。
 もともと、上関原発計画については、計画予定地対岸の祝島の漁業者をはじめとして、根強い反対の声があります。今回、山口県は、中国電力のボーリング工事計画に反対する祝島島民などが、工事海域の一時占有申請を許可しないよう、山口県に申し入れをした翌日に、中国電力の占有申請を許可したことに象徴されるように、地元住民の深刻な意見対立をまねいている問題の解決にむけて、自治体として果たすべき役割を放棄し、むしろ山口県が、事業に関わる対立を長期化、深刻化させていると言っても過言ではありません。
 私たち、ラムサール・ネットワーク日本は、前述の通り、現時点で原発の新規建設についての政府の明確な方針も示されず、必要な法令も整備されておらず、2009年の着工からすでに10年も経過したにも関わらず埋め立て工事が竣工していないことから、山口県に対し、免許権者として、中国電力の埋め立て免許を失効させ、工事海域の占用許可も直ちに撤回し、同工事を中止させることを求めます。
以 上

1 http://www.esj.ne.jp/esj/Activity/2001kaminoseki.html
2 http://ornithology.jp/iinkai/hogo/resolution080918.pdf
3 http://benthos-society.jp/kaminoseki-2015-10ver.pdf
4 https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a30000/h23-teirei-rinzi/6teireikai07-4.html
5 https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a16100/newenergy/20190726001.html

2019年11月19日掲載