諫早湾干拓・開門問題:請求異議訴訟最高裁判決の読み方と差し戻し審

よみがえれ!有明訴訟弁護団/ラムネットJ理事 堀 良一

 国に対し、準備工事に必要な3年間の猶予を与えて開門を命じた開門判決が2010年12月に確定しました。ところが国は、猶予期間が過ぎても開門しませんでした。そこで国に間接強制の罰金を課して、開門を迫った漁民に対し、国は、開門確定判決の強制力を奪おうとして請求異議訴訟を提起しました。一審の佐賀地裁では漁民が勝訴。ところが控訴審になって国は突然、漁業権は10年で消滅するから、漁民の開門請求権は確定判決の履行期前に消滅しているなどと言い出しました。控訴審の福岡高裁は、これを認めて、漁民を負けさせました。
 その最高裁上告審判決が9月13日午後3時に言い渡されました。間接照明の薄暗い法廷に4人の最高裁裁判官が浮かび、裁判長が読み上げた主文は─破棄差し戻し。
 開門義務履行期前に漁民の請求権が消滅しているなどという裁判秩序を無視した高裁判決をさすがに最高裁は維持しませんでした。請求異議の残りの論点─事情変更・権利濫用論を審理させるため、事件は福岡高裁に差し戻されました。事情変更・権利濫用論とは、不漁に苦しむ漁民の実情を尻目に、開門確定判決後、漁業は好転しただとか、馴れ合い訴訟で開門阻止判決を導いて、その控訴権を放棄してむりやり開門阻止判決を確定させておきながら、それを事情変更ととらえ、確定判決にもとづく開門請求は権利濫用になるなどという、噴飯物の主張です。差し戻し審においては、そのような荒唐無稽な国の主張を必ず退けなければなりません。

最高裁正門前で判決を伝える原告・弁護団(9月13日)
最高裁正門前で判決を伝える原告・弁護団(9月13日)


 ところで、今回の最高裁判決について、まるで差し戻し審で審理される権利濫用論について最高裁がこれを認めているかのような報道があります。こうした報道には最高裁判決というものに対する誤解があります。もし最高裁が国の権利濫用論が正しいと判断したのであれば、判決の結論は破棄差し戻しではなく、高裁の理由付けは間違っているが、結論は正しいとする破棄自判の判決になるはずです。権利濫用論については審理が不十分で結論が出せないからこそ、差し戻しになったのです。また、報道は補足意見をことさらに取り上げて差し戻し審で権利濫用論が認められるのではないかと憶測をたくましくしています。これも正しくありません。補足意見は個人意見です。最高裁判決に個人意見が付されるのは最高裁裁判官が国民審査を受けるからです。個人意見を最高裁判決と同視することはできません。しかも、補足意見は全員一致の破棄差し戻しの補足ですから、権利濫用論を正しいと結論づけるものではありません。
 差し戻し審のたたかいはこれからです。第1回期日は年明けの早い時期になることが予想されます。

ラムネットJニュースレターVol.37より転載)

2019年11月18日掲載