ニック・デイビッドソンさん九州視察同行記

ラムネットJ理事 菅波 完/同共同代表 陣内隆之

 「水の自然な流れを守る」をテーマにした東京でのシンポジウムの前に、日本における良い事例と悪い事例の現場をデイビッドソンさんに見ていただこうと、ラムネットJの柏木実理事と菅波、陣内が同行して、8月22日に石木ダム建設予定地、諫早湾干拓、23日に川辺川〜球磨川流域を案内しました。

球磨川河口干潟を眺めるデイビッドソンさん
球磨川河口干潟を眺めるデイビッドソンさん


●長崎/石木ダム計画地
 まず、ダム事業の主体である長崎県土木部河川課の担当者に面会し、事業計画の説明を受けました。続いて、石丸穂澄さんをはじめダム建設に反対している住民の方々に現場を案内していただき、その後、こうばる公民館で約30名の住民のみなさんと交流しました。デイビッドソンさんは、長崎県の説明について、①計画から40年以上が経過し、利水などの事業目的は破綻している、②事業のアセスメントで絶滅危惧種・希少種などへの影響が正しく評価されていない、③持続的に営まれている地元住民の生活や、農水省の棚田百選にも選ばれている計画地周辺の自然を守ることが、ラムサール条約で唱えるワイズユースであると指摘しました。交流会では、「住民との同意の上で建設に着手する」旨の覚書(1972年)が反故にされたという訴えがあり、強制収用も辞さない構えで一方的に建設工事を進める長崎県の姿勢は、湿地管理への地域住民の参加を強く求めるラムサール条約の立場からも許されないことが示されました。
 デイビッドソンさんの石木訪問は、九州の新聞各紙やテレビ各局も同行取材し、国際的な専門家によるラムサール条約の視点からの問題提起が大きく報道されたことで、住民のみなさんを勇気づけることができました。その詳しい様子は、地元の「石木川まもり隊」のブログでも紹介されました。*1
 後日、ラムネットJでは、石木ダムについてのデイビッドソンさんのコメントをまとめ、長崎県と佐世保市に対して事業中止を求める申し入れを行いました。*2

●諫早湾潮受け堤防北部排水門
 予定時間を大幅に超えた石木訪問を終えて、熊本へ向かう道中で諌早湾干拓の北部排水門に立ち寄りました。調整池に大量のアオコが発生し、悪臭を放っている現場を見て(嗅いで)、デイビッドソンさんも険しい表情を見せていました。
 なお、この日の行程では、山下博美さん(立命館アジア太平洋大学准教授)にも同行していただき、通訳としてご協力いただきました。

石木ダム建設予定地の棚田
石木ダム建設予定地の棚田
つるさん(右)の説明を受けながら荒瀬ダムの跡地を視察
つるさん(右)の説明を受けながら荒瀬ダムの跡地を視察

●熊本/川辺川〜球磨川流域
 球磨川流域の環境問題に関わってこられたつる詳子さん、ラムネットJの理事でもある高野茂樹さん(八代野鳥愛好会)のお二人に、川辺川上流の五木村から下流の球磨川河口干潟までを案内していただきました。上流に市房ダムがある球磨川とダムがない川辺川との違い、両河川が合流する人吉市を過ぎて、今もダム撤去が果たされていない瀬戸石ダム周辺のよどんだ水と、ダム撤去によって清流が回復した荒瀬ダム跡地周辺との違いなど、「水の自然な流れ」の大切さを体感できました。これらの様子は熊本日日新聞などでも報道されました。球磨川河口干潟では、夕景を眺めながら、森・川・海のつながりが多様な自然を育んでいることを語り合いました。最後に、球磨川河口のラムサール条約登録を準備している八代市の市民環境部を訪問しました。登録に向けて鳥類被害を心配する農業者の理解が課題とのことでした。夜は八代野鳥愛好会のみなさんと夕食をご一緒し、交流を深めました。
 デイビッドソンさんは今回が2回目の来日で、前回は名古屋での生物多様性条約COP10の会場から出られず、藤前干潟に行くこともできなかったそうですが、今回は日本の湿地破壊と再生の現場の一例を見ていただく密度の濃いツアーになり、デイビッドソンさんとのつながりも深まりました。


ラムネットJニュースレターVol.37より転載)

2019年11月18日掲載