報告:第14回日韓NGO湿地フォーラム(韓国・順天市)

ラムネットJ共同代表 永井光弘

 2019年11月29日から12月1日にかけ、韓国・順天(スンチョン)市において、第14回日韓NGO湿地フォーラムが開催されました。
 初日のエクスカーションでは、順天市の職員さんにご案内いただき、順天湾湿地をさまざまな角度から視察しました。途中ナベヅルやクロハゲワシが私たちを出迎えてくれました。湾の山の端に沈む夕陽のオレンジ色が鮮やかでした。興味深かったのは、湾に注ぐ東川(ドンチョン)上流山中の耕作放棄地が形成した泥炭湿地でした。住民の情報で存在を知った市は、湾を守るには上流湿地からと保全方針を明らかにし、ゴルフ場にする予定の所有者と保全に向け交渉中とのことでした。

順天湾のクロハゲワシ
順天湾のクロハゲワシ
順天湾の夕暮れの光景
順天湾の夕暮れの光景

 翌30日は一日かけて日韓から多くの報告が行われました。
 第1部として、日韓それぞれの湿地保全の現状が報告されました。韓国では四大河川事業の後始末が検討される一方、洛東江(ナクトンガン)河口に10橋梁の建設が計画されるなど予断は許さないようです。日本でも辺野古埋め立て、石木ダム計画に加えメガソーラーによる湿地破壊が報告されました。開催地の順天市からは、順天湾の生態的健全性を基本とした都市づくり、水田やムツゴロウ養殖場の湿地への復元、ナベヅル保護のため農耕地の電柱280本撤去などの施策が報告されました。市民や市職員の努力もあり、湿地中心の「生態観光地」たることは今や市の政策の隅々にまで組み込まれているようです。
 第2部は『地域住民の参加と湿地の恩恵の共有』という共通テーマで、日韓それぞれ4題が報告されました。韓国からは鉄原(チョロン)郡でのツルを守る農業、始興(シフン)市のホジョ原(500haの水田)の生態系を農家と守る地域住民、ローカルフード順天による順天湾周辺のサルボウ、ハイガイの恵みが報告されました。日本からは、ツシマヤマネコ保全と農業振興の両立を試みる佐護ヤマネコ稲作研究会の報告、有明海3ラムサール条約湿地(東よか、肥前鹿島および荒尾干潟)と各地域住民のかかわり(シギの恩返し米、ガタリンピックなど)、3干潟の連携についての報告がありました。さらに、今回も"水の自然な流れ"をキーワードとして、韓国からは干潟復元事例の報告がありました。報告者キム・スンレさんは、2015年海洋水産部発表「干潟生態系復元事業中期推進計画」(2019-2023)と具体的事例を紹介し、法の不備で単なる土木工事に陥ることを危惧し今後の進展を見守るとのことでした。日本からは沖縄・嘉陽海岸の住民参加型護岸工事の例が紹介されました。陸域と海の間で水の流れを遮断しないセットバック方式が特徴です。

今回のフォーラムに参加された皆さん
今回のフォーラムに参加された皆さん


 最終日1日は、日韓双方からラムサール条約履行状況の評価とNGOの対応策が報告され、韓国から本年10月予定の生物多様性条約締約国会議への対応、日本から世界湿地ネットワーク(WWN)の活動と役割が報告され議論されました。
 紙面の都合で駆け足となりましたが、本フォーラム要旨集はラムネットJのウェブサイトから閲覧可能です。今回も内容が盛りだくさんで意義深いフォーラムとなりました。

*https://www.ramnet-j.org/file/2019-14jkwnf.pdf

ラムネットJニュースレターVol.38より転載)

2020年03月05日掲載