湿地巡り:多々良川河口干潟・今津干潟(福岡県)

ふくおか湿地保全研究会 服部卓朗・勝野陽子

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 高度成長期以前の1960年代、福岡市周辺には博多湾東部に多々良川河口干潟が、西部に瑞梅寺川河口干潟(以後、「今津干潟」という)が広がっていました。当時はどちらの干潟でもカブトガニが見られ、多くの生きものが生息していました。現在ではクロツラヘラサギの飛来地として、その名前を耳にする方も多いかと思います。
 しかし高度成長期以降になると、都市部に近い多々良川河口干潟は開発のため瞬く間に埋め立てられ、河口域周辺の後背地もまた宅地化が進んでいきました。埋立地には大型船の航路が作られたことで海底の様相が激変し、いつしか多々良川河口からカブトガニは姿を消してしまいました。

多々良川河口
60年代から70年代にかけて、多々良川河口は大きく変化しました(左:1964年、右:1998年、出典:国土地理院所蔵資料より)


 一方、今津干潟は町の中心から離れていたこともあり、目立った開発は進まなかったものの、当時福岡県は慢性的な水不足に悩まされており、瑞梅寺川上流に瑞梅寺ダムが建設されました(1969年着手、1977年竣工)。今津干潟の直接的な開発は行われていませんが、ダムが建設されたことで干潟への栄養塩類・土砂の供給が減少するなどの影響を受けています。さらに、近年は九州大学が東区箱崎から移転してきたことにより周辺地域は都市化が進み、農地はどんどん宅地へと変わってきています。

今津干潟周辺の後背地の様子(2009年頃撮影)
今津干潟周辺の後背地の様子
(2009年頃撮影)


 このように、福岡市周辺の干潟環境は危機的状況にありますが、現在も今津干潟には約80‌haの干潟が広がっており、多くの水鳥が見られるほか、福岡市周辺における唯一のカブトガニ産卵場でもあります。また、干潟から陸地へのエコトーンが残されている今津干潟周辺には、これまでヘラシギ、マキバタヒバリ、コモンシギといった「迷鳥」と呼ばれるさまざまな鳥類が確認されてきました。1980年代半ば、日本ではじめてクロツラヘラサギの越冬が確認されたのも今津干潟でした。
 このようなことからも、福岡市周辺における湿地の中で今津干潟が最もラムサール条約湿地への登録を目指せる場所であり、ふくおか湿地保全研究会も今まで以上に今津干潟に注目していきたいと思います。

ラムネットJニュースレターVol.42より転載)

2021年04月03日掲載