第15回 日韓NGO湿地フォーラム(八代市)の報告

ラムネットJ共同代表 陣内隆之

 ラムネットJでは、第15回日韓NGO湿地フォーラムを2020年12月5~6日に開催しました。コロナ禍のためオンラインによる開催となりましたが、日韓合せて最大70名ほどのオンライン参加があり、これまで以上に一般の方々に参加いただくことができました。日本側スタッフは八代市の会場に集まりましたが、これは球磨川河口干潟のラムサール条約登録を後押しする目的で計画していたこと、豪雨被害の現地視察を行うことになったことが理由です。

日韓NGOフォーラム(2日目)に参加された皆さん(Zoom映像)
日韓NGOフォーラム(2日目)に参加された皆さん(Zoom映像)


 初日の報告では、球磨川河口干潟のラムサール登録に向けて4つの報告がありました。地元八代からは、カモ類による農作物被害と防鳥対策の苦労、「田んぼの生きもの調査」が登録への元気づけになったことの報告がありました。地元の農業者の理解という課題について、ラムサール条約湿地となり水田の湿地機能を活かした地域づくりを行うことで、農作物の付加価値向上につながることを報告した蕪栗沼の事例は大変参考になりました。韓国トンヨン市の海草群落を海洋保護区にした事例では、反対する漁民に対して、保護区になれば地域住民に多くの経済的支援が得られることを実際の経験に基づいて説得したことが報告されました。韓国ハンガン河口チャンハン湿地の事例では、澪筋の復元を通じて陸地化していた湿地がよみがえり、漁民の収入確保につなげたプロジェクトが報告されました。展示場やエコツアー運営など普及啓発も行うなど、湿地と漁民のウィンウイン戦略に多くを学びました。

 初日もう一つの報告テーマ「水の自然な流れを守る」では、はじめに水源連の嶋津暉之さんから「これ以上のダムは必要か」という基調講演がありました。鬼怒川の大氾濫の事例から、下流ではダムによる治水効果は極めて低いこと、西日本豪雨の事例から、想定外の雨量で洪水調整能力を失い、緊急放流によって被害を増幅させてしまったことが報告されました。いずれもダム偏重の治水行政がもたらした問題です。また、川辺川ダム事業が流水型として復活する機運がありますが、流水型であっても自然環境へ影響があることの解説もありました(1)。韓国4大河川事業の報告では、ムン・ジェイン大統領の公約により、16ある堰のうち5つが常時開放レベルにあること、それによって水の滞留時間が大幅に減少し(最大88%)、アオコの発生は95%も減ったことの報告がありました。地元のつる詳子さんからは、山の荒廃と瀬戸石ダムが中流部の水害をもたらしたことの報告などがありました。

あらゆる谷、斜面から土石が崩れ落ちた
あらゆる谷、斜面から土石が崩れ落ちた(つる詳子さんのスライドより)
瀬戸石ダムが障害物となり水害を拡大させた
瀬戸石ダムが障害物となり水害を拡大させた(つる詳子さんのスライドより)

現地視察で見た肥薩線の鉄橋崩壊

現地視察で見た肥薩線の鉄橋崩壊

 つるさんには、フォーラム前日に現地視察の案内をしていただきました。八代から瀬戸石ダムまで球磨川沿いに視察しましたが、いくつもの橋が流され、ねじ曲がった線路が延々と続き、家屋は無残な姿に変わり果て、谷や斜面の至る所が崩れた土砂で埋まり、コンクリート護岸は大破し、鹿の食害に起因した斜面崩壊も確認するなど、被害の大きさに茫然とするばかりでした。坂本町の本田さんからいろいろとお話を伺いましたが、以前は冠水しても「被害」という感覚はなかったが、ダムができて被害がひどくなるばかりとのこと。山の荒廃対策に加えて、瀬戸石ダムの撤去は必須と改めて感じました。

 フォーラム2日目は、ラムサールCOP14などに向けた報告と討議でした。IUCNに提出した動議「自然な水の流れを守る」が採択されたこと、国別報告書への取り組みの一つとしてNGOアンケートを行い環境省に提出したこと、パブコメ前に報告書案を一か所修正させたこと(中池見湿地)などが報告されました。生物多様性国家戦略に「国家湿地政策」が独立して明記されていないことの課題も提起されました。韓国側からは、ナクトンガンやハンガン河口、カンファドなどの開発事例を示して、国別報告書の内容が実態を反映していないことの問題提起がありました。
 また、以前ラムネットJの招聘で球磨川流域を視察した元ラムサール条約事務局次長のニック・デイビッドソン教授から届いたメッセージも紹介され、ダムが洪水を更に悪化させる可能性があるという国際的な評価や「穴あきダム」でも自然生態系への悪影響が大きいという指摘が伝えられました。ラムネットJでは、八代でのフォーラム開催や現地視察を受けて、「川辺川ダム容認の撤回を求める声明」を12月18日付で発表しています(2)

(1)嶋津暉之さんのスライドのリンク
http://suigenren.jp/news/2020/12/20/14006/
(2)http://www.ramnet-j.org/2020/12/information/4816.html

ラムネットJニュースレターVol.42より転載)

2021年04月03日掲載