課題を残したまま奄美・沖縄は世界自然遺産登録へ

日本自然保護協会/ラムネットJ理事 安部真理子

 奄美大島、沖縄島、西表島、徳之島の4つの島についてIUCN(国際自然保護連合)の評価書が6月上旬に公表され、7月にオンラインで開かれる世界遺産委員会で世界自然遺産登録が正式に決定される見通しです。いずれも候補地は陸上の一部だけにとどまり、海や森や自然の流れが残る河川など重要な場所がいくつか外れてしまいました。1992年に日本が世界遺産に加盟して以来、環境団体は海も陸も含めて南西諸島の登録を要望してきましたので、その点については残念に思っています。

大浦川河口のマングローブ林

大浦川河口のマングローブ林

●辺野古の海と大浦川
 登録から外れた場所の1つは米軍新基地建設が進む辺野古と、その海に流れ込む大浦川などの河川です。
 辺野古・大浦湾は、サンゴ群集、マングローブ、海草藻場、砂場、ガレ場と多様な環境をもっています。名護市指定文化財であるマングローブ林を擁する大浦川は、森の養分を海に運ぶ重要な役割を担うとともに、川と海を回遊する多くの生き物の生息域となっています。河口ではアダンベンケイガニ(Scandarma lintou Schubart, Liu & Cuesta, 2003)などの絶滅危惧種や希少種も生息しています。これらのことから大浦川はラムサール条約湿地潜在候補地(環境省、2010年)に選ばれており、基準3、7、8として「河口にはマングローブ林が発達し、マングローブ性魚類の種の多様性が高いこと」が選定の理由とされています。
 沖合で進んでいる埋め立て工事の影響が懸念されるなか、埋め立て地周辺の保護を強化する必要があります。今年6月4日に、じゅごんの里などと連名でラムネットJは沖縄県知事に、大浦川河口の鳥獣保護区(特別保護地区)の指定を求める要望書を出しました。

●奄美大島の周辺海域
 奄美大島周辺の海も豊かなことで知られていますが、同じく世界自然遺産の対象から外れました。体長12cmほどの小さなアマミホシゾラフグは、海底に直径2mほどもある産卵床を作ることが知られ、その幾何学的な模様からミステリーサークルと呼ばれています。発見されたのはつい最近1995年のことでした。
 またアマミホシゾラフグをはじめとして、奄美大島周辺海域自体の生物多様性が高く、なかでも大島海峡の持つ生物多様性がとりわけ豊かであることが近年明らかになってきています。この海域では2018年にはアミトリセンベイサンゴの北限の分布が確認されました。2020年11月にはツツナガレハナサンゴとツツコエダナガレハナサンゴが国内で初めて記録され、オオナガレハナサンゴが琉球列島で初めて記録されました。これらの生物およびこれらを支える環境は保護すべき価値が極めて高いものです。
 奄美・沖縄の世界自然遺産登録を喜びながらも、これらの場所については別の形で保護を進め、いつか世界自然遺産を拡張して、海から陸までつながることを願っています。

アマミホシゾラフグと産卵床(写真:アクアダイブコホロ)
アマミホシゾラフグと産卵床(写真:アクアダイブコホロ)


*6月19日にオンラインで実施した「大島海峡の海の生き物シンポジウム~アマミホシゾラフグをはじめとして~」の動画をご覧ください。
https://youtu.be/ttxXil4sF4k
ラムネットJニュースレターVol.44より転載)

2021年08月12日掲載