報告:第16回 日韓NGO湿地フォーラム

ラムネットJ共同代表 永井光弘

 日韓NGO湿地フォーラムが2021年12月4日、5日の2日にわたって開催されました。コロナ禍のため今回も対面ではなく、日本・八代市、韓国・仁川(インチョン)市の拠点を中心にZoomで結んでの開催となりました。
 初日はホストの韓国側KWNN(韓国湿地保護連合)提案の「湿地保護区」をテーマに報告が行われました。
 まず、総論としてエココリアのハン・ドンウク氏が、生物多様性条約会議(CBD)で議論中のポスト2020世界生物多様性枠組(GBF)の保護区に関する第3ターゲット「2030年までに地球の陸域、海域そして淡水域の少なくとも30%は効果的に保護されなければならない」について、検討状況などを報告しました。これを受け、NGO「湿地と鳥の友達」のパク・チュンロク氏が韓国の湿地保護区の状況、ラムネットJの永井が日本の湿地保護区の状況を報告しました。どちらの国でも、CBD・COP10(2010愛知)以来ラムサール条約湿地をはじめ湿地保護区は拡大されつつあるものの、いわゆる保護区とされる湿地でも開発計画が進むという問題状況が報告されました(韓国の洛東江河口橋梁建設計画、日本の名蔵アンパル隣接地ゴルフリゾート計画など)。

八代市の会場での発表
八代市の会場での発表
オンラインでの参加者(Zoomの画面)
オンラインでの参加者(Zoomの画面)

 次に、「湿地保護区」に関連して韓国から4本、日本から3本の個別報告が行われました。
 広島県・ハチの干潟では近接してLNG発電所の浮体式貯蔵設備等が計画されカブトガニなど多くの絶滅危惧種への影響が懸念されます(広島大学/大塚攻教授)。また、北海道・勇払原野(ウトナイ湖に隣接)の苫東厚真(とまとうあつま)地区では、ローター高120mの風車を最大10基建設する風力発電所計画があり、国内希少種チュウヒなど鳥類にバードストライク被害が懸念されます(日本野鳥の会/葉山政治氏)。韓国側から、ファソン湿地近隣の湿地環境、特に防潮堤が開放され海水流通のあるファソン湖でクロツラヘラサギなど609種以上の種が観察され、その保護のため2025年世界自然遺産登録を目指すとの報告がされました(ファソン環境運動連合/パク・へジョン氏)。チャンウォン市チュナム貯水池は、過去に渡り鳥の保護と近隣農民・漁民との間で激しい葛藤があった湿地ですが、地域環境団体の活動により2016年から各種MOU(覚書)の締結により冬みずたんぼなど水田湿地保護が進んでいます(チュナム分かち合い/チュ・ユンシク氏)。また、2006年に防潮堤が閉じられたセマングムでは淡水化工事一辺倒と思っていたところ、北部のスラ干潟(南北6.5km、東西最大4km)につき「2020年12月30日に夜間にも水門開門を再開し公式に淡水化を放棄した」との評価もあるようです。現在もクロツラヘラサギ、ミヤコドリ、カワウソなど法定保護種がスラ干潟を利用しているとのことでうれしい気持ちとなる一方、新たな空港建設計画もあるようです(セマングム市民生態調査団/オ・ドンビル氏)。その他、出水市のラムサール条約湿地登録報告、仁川市チャンス川の河川再生事業報告は、喜ばしいものでした。
 2日目は、日韓のメンバーによって、本年4月末予定のCBD、11月のラムサール条約会議でのサイドイベントや、2月の世界湿地の日における共同声明などが話し合われました。積み残しの議論も多かったのですが、GBFを受けた湿地保護区・OECMの在り方など、実り多いものとなりました。

ラムネットJニュースレターVol.46より転載)

2022年02月04日掲載