沖縄沿岸に大量に漂着している軽石の問題について

琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 山城秀之

 一生に一度あるかないかの軽石大量漂着に関し、サンゴを研究している立場からまとめてみました。はじめに経緯です。小笠原諸島福徳岡ノ場の海底火山は、これまで度々噴火しています。1986年1月の噴火の際も、5月には軽石が沖縄に漂着しています(加藤 1988)。今回の国内における戦後最大級の噴火が起きたのが2021年8月13日、約1000km離れた大東島に10月4日流れ着き、奄美群島喜界島で10月10日、そして約1400km離れた沖縄島には10月13日、以降、日を追うごとに事態は深刻となり、その様子は刻々とニュースに流れました。漂流状況や漂着状況は、流れや風向きによってめまぐるしく変化するため、沖縄島に限っても全体を把握するのは困難な状況です。しかし量の大小と時差はあるものの、11月には宮古島や石垣島など、12月には伊豆諸島の海岸で確認されるようになりました。表層を漂うため、北風が卓越する場合、北向きに開いている入り江、河口、漁港および海岸で多くの漂着が見られます。通常の漂着物と異なり、膨大な量が吹き寄せられ、その圧力で河川の奥まで到達した場所もあります。沖縄島北部の海岸では、打ち上げられた軽石が厚さ70‌cmに達している場所も確認できました。

海面を漂流および砂浜へ漂着した軽石の様子
海面を漂流および砂浜へ漂着した軽石の様子
(10月30日、沖縄島大宜味村)
中性浮力となり海中を漂う軽石
中性浮力となり海中を漂う軽石
(10月26日、沖縄島大宜味村)

 サンゴへの影響は長期的に追跡しないとわかりませんが、現時点で目立った影響(死亡、白化、傷)はないようです。海面を覆い尽くしている場合、その下は真っ暗になり、共生藻の光合成産物に栄養を頼っているサンゴには、少なからず影響があるかもしれません。滞留している場所の海面下の光量はほぼゼロでした。また、大潮の干出時に軽石がサンゴと擦れる場合や、中性浮力となり水中で漂っている場合、また浮力を失って海底に堆積した場合など、さまざまな状況があり注視する必要があります。
 現在、特にその影響が懸念されている場所は、軽石が大量に安定的に堆積あるいは滞留している干潟やマングローブなどの浅瀬です。干満による上下運動や直接底質が覆われる場所の場合、エビ、カニ、ウニなどへの物理的影響は避けられないです。これらの底生生物の個体数あるいは行動への影響が懸念されます。

大潮の干潮時(深夜)に干出した枝状サンゴにまとわりつく軽石
大潮の干潮時(深夜)に干出した枝状サンゴにまとわりつく軽石
(11月5日、沖縄島今帰仁村)
マングローブや干潟を覆う軽石
マングローブや干潟を覆う軽石(12月18日、沖縄島名護市)。メヒルギとヤエヤマヒルギの呼吸根(挿入図)

 社会への影響も甚大で、コロナ禍第5波から抜け出したところへの軽石漂着は、観光業、水産業そして船舶の運行中止にまで及んでいます。養殖魚の大量死も起こり、鰓あるいは餌と間違えて食べて消化管が詰まったことが原因とのことです。サンゴ礁の美しい白い砂浜が灰色に覆われるのはかなりショックなことでした。個人的に経験したことも記しておきます。サンダルの間に軽石が入ると痛いため砂浜は歩きにくくなりました。またスノーケリング中に排水弁に軽石が詰まり、逆にそこから海水が入りっぱなしとなり危険な状態になることもありました。滞留している場所を泳いだ際は昼間でも暗黒のため、恐怖を感じました。
 県や市町村は莫大な予算を投じて、軽石の撤去や除去対策を行っています。県議会は12月2日に27億円の補正予算を可決しましたが、今後も続く軽石問題の先行きは見通せない状況です。一方、当初懸念されていた重金属などについては、土壌環境基準以下となっており(沖縄県、11月9日公表)、軽石そのものの安全性が担保されたため、沖縄県環境部は軽石の利活用に関するアイディアを募集し公表する予定です(民間事業者および団体に限る、12月8日締め切り)。これまでに赤土の濾過材あるいは粘土質の土壌と混ぜて水はけを良くする土壌改良材としての利用等が挙げられています。量が膨大なため決定打となる対策を見つけることは困難と思われます。自然現象とは言え、自然環境や社会にここまで影響を及ぼす事態になることは想定していませんでした。withコロナ&軽石が続きます。

(ラムネットJニュースレターVol.46より転載)

2022年02月04日掲載