湿地巡り:ウトナイ湖(北海道)

(公財)日本野鳥の会 瀧本宏昭

utonai-map.jpg
 北海道苫小牧市東部に広がる勇払原野の中に、面積275haのウトナイ湖は位置しています。1981年、日本野鳥の会を中心とした全国や地域の方の運動とご寄付によって、野生鳥獣の生息地保全を目的とした「サンクチュアリ」を国内で初めて設置しました。その後、1991年には湖とその周囲の510haがラムサール条約に登録されています。
 湖の周辺には、背丈以上あるヨシ群落や足首ほどの高さのスゲ群落などの湿地、ホザキシモツケの低木の群落、ハンノキが優占する森林など、水辺から森林までのさまざまな植物の群落が見られます。また、多様な自然環境が残されていることで、これまでに約270種類の野鳥が観察されており、チュウヒ、タンチョウ、オジロワシなどの絶滅危惧種が繁殖期に利用しているほか、春(3月~4月)と秋(9月~12月)にはガンカモ類の渡りの中継地としてにぎわい、特に3月には数万羽のマガンのねぐら立ちを観察できます。

上空から見たウトナイ湖、写真の左が苫小牧市街地
上空から見たウトナイ湖、写真の左が苫小牧市街地


 現在、ウトナイ湖には、当会直営の「ネイチャーセンター」をはじめ、苫小牧市の「ウトナイ湖野生鳥獣保護センター」、民間企業が運営する「道の駅ウトナイ湖」の3施設があります。近隣には新千歳空港やフェリーターミナルがあることから、一般の方もお越しいただきやすい場所となっています。当会では専門職員であるレンジャーを配置し、来訪者に自然の紹介や保護の必要性をお伝えするために、ガイドや団体の対応などを行っています。併せて、ボランティアやサポーターの皆さんとの鳥類の調査の実施や、企業の方と自然環境の管理作業を行うなど、地域の皆さんと一緒に保全活動も進めています。

3月のガン類のねぐら立ち
3月のガン類のねぐら立ち
地域の小学生もウトナイ湖で自然を学ぶ
地域の小学生もウトナイ湖で自然を学ぶ

 一方で、近隣は北海道の人や物流の要衝でもあるため、周辺でさまざまな開発計画が立てられています。そこは、流域や動物の行動圏などでウトナイ湖と関わりが深く、希少鳥類が生息しながらも、法による自然保護がなされていない場所です。そこで、当会はウトナイ湖以外の勇払原野の保全活動も進めています。現在は、勇払原野に建設予定の河道内調整地へのラムサール条約登録地拡大を目指すとともに、風力発電事業に中止の要望書を提出するなどの対応を行っています。

ラムネットJニュースレターVol.48より転載)

2022年08月10日掲載