日本の沿岸域で起こっていること ─藻場で異変!?─

日本国際湿地保全連合 青木美鈴

■藻場で異変!?
 環境省が実施している生態系の長期モニタリング事業「モニタリングサイト1000」の沿岸域調査から、藻場(海草や海藻が生えている場所)の複数の調査サイトにおいて、過去5年の間で海草や海藻の消失等が確認されています。

■コンブ目海藻の消失
 海藻藻場のモニタリングでは、全国に6サイトを配置しています。そのうち、最も南に設置されている薩摩長島サイト(鹿児島県)では、日本産コンブ目海藻の中でも最も低緯度まで分布しているアントクメを主体とした藻場をモニタリングしています。この藻場では、アントクメが2016年に激減し、2017年以降はアントクメが生育していない状態が続いています。また、伊豆下田サイト(静岡県)では、コンブ目海藻のアラメ・カジメを主体とした藻場(海中林)をモニタリングしています。この藻場では、アラメ・カジメが2020年に著しく減少し、2021年10月の調査では、アラメ・カジメのほとんどが茎状部だけになっていました(図1、2)。
 いずれのサイトの藻場でもコンブ目海藻が激減し、その後、回復しない状態が継続しています。この背景にはさまざまな要因が考えられますが、その一つとして、調査海域に生息している草食性(海草や海藻を食べる)魚類による影響が挙げられています。調査を担当している専門家によれば、海水温上昇によるアイゴやブダイ等の草食性魚類の摂食が活発化したことが要因の一つとして考えられるとのことでした。実際、両サイトの藻場では、草食性魚類の食痕が確認されており、サイト周辺海域でも同様の現象が確認されています。このような状態が継続すると、各海域の藻場が回復することなく消失してしまう可能性も懸念されます。

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図1 伊豆下田サイトの藻場に設置された永久方形枠内の林冠構成種(アラメ・カジメ等)の被度変化 出典:環境省モニタリングサイト1000プロジェクトによるデータを基にグラフを作成(MOB01.zip、https://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/data/index_file_algalbeds.html
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図2 茎状部だけになったカジメ群落と小型アイゴの群れ(伊豆下田サイト)撮影:倉島彰

■ウミショウブ群落の衰退
 海草(アマモ類)藻場のモニタリングでは、全国に6サイトを配置しています。そのうち、最も南にある石垣伊土名サイト(沖縄県)のアマモ場では、全球的にみて北限にあたるウミショウブの群落がみられます。このアマモ場では、2020年にウミショウブの著しい減少が確認されました。2021年9月の調査では、ほとんどのウミショウブの葉は消失しており、根元だけの状態になっていました。
 このウミショウブの減少は、アオウミガメの被食による影響が挙げられています。実際、調査海域では、アオウミガメが視認されるとともに、ウミショウブに食痕も確認されています(図3)。

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図3 アオウミガメの食痕(石垣伊土名サイト)撮影:島袋寛盛
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図4 調査地点の海底の様子(指宿サイト)撮影:堀正和

■アマモの消失
 指宿サイト(鹿児島県)では、アマモの分布の南端付近にあたる鹿児島湾のアマモ場をモニタリングしています。このアマモ場では、2015年に群落規模の縮小が確認され、その後、群落規模を回復することなく、2018年にはアマモが全て消失してしまいました。2018年以降、アマモが消失した状態が続いています(図4)。
 この背景には、台風による影響と鹿児島湾のアマモの生態的特徴が関係している可能性が挙げられています。鹿児島湾のアマモには、他地域で見られるアマモとは異なり、一年で生育・枯死するという特徴が見られます。これは、多年生のアマモが、高温等の生育条件が好ましくない時期を種子の状態で乗り切るためだと考えられています。サイトのアマモ場は、そのような特徴をもったアマモのみで構成されていました。2014年、サイトを台風が直撃し、種子の状態のアマモが流されてしまったため、翌年に育つアマモが減ったのではないかと推測されています。また、2015年以降も襲来する台風の影響等の群落規模を拡大できない条件が続いたことにより、アマモ場がそのまま消失してしまった可能性が挙げられています。なお、近年、指宿サイトだけでなく、鹿児島湾に生育するアマモも減少しており、湾全体のアマモの群落規模の縮小が見られています。

 「海の中」で「今」起こっていることは、普段、我々が直接観察することが難しく、その変化を知るための方法は限られています。限られた場所ではありますが、モニタリングしている藻場を通じて、海域で起こっている環境変化にも目を向け、これからの暮らしの在り方を考えていくことが求められていると思います。

ラムネットJニュースレターVol.49より転載)

2022年11月17日掲載