湿地巡り:吉野川河口干潟と汽水域(徳島県)

とくしま自然観察の会 井口利枝子

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 四国三郎、吉野川は、四国のほぼ中心の瓶ヶ森から発して、約194kmを東流し、紀伊水道に注ぎ込んでいます。河口から第十堰まで14.5kmにわたり広がる汽水域は、日本の河口本来の姿を残し、広大な河口干潟を目にすることができます。
 吉野川の河口域は、日本で最初に「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」に参加し、環境省の「日本の重要湿地500」にも選定され、さらに2010年9月には、ラムサール条約湿地潜在候補地となり、国内外において重要な湿地と認められています。汽水域から海域にわたる高度な生物多様性が確保されており、シオマネキやルイスハンミョウをはじめ、今や各地の干潟から姿を消しつつある生物が、当たり前に見られる場所です。また、ホウロクシギやズグロカモメなどさまざまな渡り鳥が訪れ、ヘラシギ、クロツラヘラサギは、定期的に飛来しています。
 沿岸での藍、レンコンやサツマイモの栽培、水域での海苔養殖、シジミやシラスウナギ漁など、流域、沿岸域そして海など、自然と人間とのかかわりがよくわかる地域でもあります。徳島市近郊にあって、バードウォッチングや散策、子どもたちの天然の遊び場として、人々に長年愛されてきました。

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吉野川河口干潟と建設中の橋

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シオマネキ

 ところが、今、この河口の生物多様性が危機にあります。
 現在、吉野川河口1.8kmの地点では、東環状大橋(仮称)の建設が進んでおり、さらに川と海のちょうど境目を通過する 四国横断自動車道の建設がごく隣接したところに計画されています。臨海部での道路建設により、沿岸環境の連続性は分断され、長い時間をかけて成立した生態学的バランスは失われ、沿岸本来の姿は失われてしまいます。二重投資を回避するためにも、東環状大橋を四国横断自動車道の吉野川渡河橋として活用できる道を探るべきです。
 私たちは、この吉野川河口汽水域を、森、川、海、空、人の暮らしが多様につながる素敵な場所として、世界に誇り、そして将来にひきつぎたいと考えています。
(ラムネットJニュースレターVol.6より転載)

2011年07月29日掲載