滋賀県琵琶湖地域の「世界農業遺産認定」について

森・里・湖(うみ)の循環「琵琶湖システム」
滋賀県「ここ滋賀」所長 青田朋恵

 皆さんは、「世界農業遺産」をご存知ですか?
 「世界農業遺産」とは、世界的に重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域を国連食糧農業機関(FAO)が認定する制度です。
 これまでの認定数は(2022年11月現在)世界23か国72地域。昨年2022年7月に琵琶湖と共生する農林水産業である「琵琶湖システム」が世界農業遺産として認定され、日本では13地域が認定されています。

琵琶湖と周辺の水田
琵琶湖と周辺の水田
琵琶湖のエリ漁
琵琶湖のエリ漁

 「琵琶湖システム」のある滋賀県琵琶湖地域は、1000m級の山々に囲まれ、その山々が水源となり、大小約460本あまりの河川が琵琶湖のまわりにある水田を通って琵琶湖に流入する、そんな森・里・湖(うみ)に育まれる地域です。琵琶湖地域では、こうした地理的条件のもとで、1000年以上、中世時代の昔から、資源保全の考え方で行われてきた琵琶湖の伝統漁業である「エリ漁」や、琵琶湖固有種のニゴロブナなどの湖魚が琵琶湖と水田を行き来し産卵・繁殖する「魚のゆりかご水田」、また水田で取れた米と水田に遡上してきたニゴロブナを漬け込むフナズシなどの食文化が人と人の絆の醸成や祭礼とも深くつながってきました。古文書に裏付けられたそれらに加え、琵琶湖の環境や生きものを守り、日本一の取り組み面積を誇る「環境こだわり農業(減農薬・減化学肥料農業)」や企業やNPOなどと共に育む水源林保全など、滋賀の風土と歴史の中で生み出されてきた琵琶湖と共生する農林水産業が「琵琶湖システム」として「世界農業遺産」に認められました。
「魚のゆりかご水田」生きもの観察会

「魚のゆりかご水田」生きもの観察会

 琵琶湖システムの構成要素のひとつである「魚のゆりかご水田」は、圃場(ほじょう)整備などの近代化により、自然に魚が遡上しづらくなった排水路に農家だけでなく、地域住民、企業や学生などと連携して魚道を設置し、昔ながらの水田環境を再生し、湖魚の生息環境を支える仕組みです。この水田では、生物多様性保全効果に加えて、子どもたちへの環境学習効果、生き物がにぎわうブランド米や6次産業化への進展など、近江商人の心得である「三方よし」になぞらえて、このプロジェクトの意義を「五方よし」と言い、地域活性化の起爆剤としてPRしてきました。琵琶湖という京阪神1450万人の水源として、生命を預かる本地域では、さらに、琵琶湖の水質や環境保全など持続可能な農業を、これまで以上に推進するため、国の進める「みどりの食料システム戦略」を踏まえ、オーガニック農業への転換を目標に掲げています。多様な主体との連携により、琵琶湖を「守り、活かし、支える」取り組みを推進し、SDGsの目標達成に向け、人と人との絆を大切にした営み、魅力あふれる琵琶湖と共に育まれた農林水産業「琵琶湖システム」を世界へと発信していきたいと考えています。
 私は、昨年4月から東京日本橋にある首都圏発信拠点「ここ滋賀」の所長として勤務していますが、この世界に誇るべき「琵琶湖システム」の魅力と価値をもっと知っていただき、生産者だけでなく、それを支える消費者の皆さんや企業、また次世代を担う子どもたち、多様な皆さまと共に、持続可能なものとして、地域活性化につなげていきたいと思っています。これからも、皆さまのご支援をお願いしたいと存じます。ぜひ、また琵琶湖のある滋賀へお越しください。

2023年01月30日掲載